DX成功の鍵はBPRにあり!DXとBPRの違いと関係性を徹底解説

近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。しかし、「思うような成果が出ない」「ITツールを導入しただけで終わってしまった」といった声も少なくありません。その原因の一つとして、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の視点が欠けている、あるいはその本質が誤解されている可能性が考えられます。 DXとBPRは、どちらも企業変革を目指すものですが、その目的やアプローチは異なります。両者の違いを正しく理解し、効果的に連携させることが、DX成功の鍵となります。 この記事では、DXとBPRそれぞれの定義を確認した上で、両者の違い、そしてなぜ連携が重要なのか、具体的な進め方までを分かりやすく解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DXとは、経済産業省の定義によれば、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。
つまり、DXは単にデジタルツールを導入すること(デジタイゼーション)や、特定の業務をデジタル化すること(デジタライゼーション)に留まりません。デジタル技術を「手段」として、ビジネスモデルや組織全体を根本から変革し、新たな価値を創出し、競争優位性を確立することを目指す、経営戦略そのものなのです。
DXの特徴
- 目的: ビジネスモデル変革、新たな顧客価値創出、競争優位性の確立
- 視点: 経営戦略、全社的、中長期的
- 原動力: データとデジタル技術、顧客ニーズ
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは?
BPRとは、1990年代にマイケル・ハマーとジェームス・チャンピーによって提唱された概念で、「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと」と定義されます。
簡単に言えば、BPRは既存の業務プロセスをゼロベースで見直し、非効率な部分や重複を排除し、全体最適の視点から「劇的な」パフォーマンス向上を目指して再設計することです。部分的な「業務改善」とは異なり、組織構造や情報システムなども含めて、「抜本的な」改革を目指します。
BPRの特徴
- 目的: 業務プロセスの劇的な効率化、コスト削減、品質・サービス向上
- 視点: 業務プロセス、全体最適、短~中期的
- 原動力: 既存プロセスの問題意識、目標達成への強い意志、抜本的改革への決意
DXとBPRの5つの違い
DXとBPRは密接に関連しますが、以下の点で違いがあります。
比較項目 | DX(デジタルトランスフォーメーション) | BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング) |
---|---|---|
1. 目的 | ビジネスモデル変革、新規価値創出 | 既存プロセスの抜本的再設計、パフォーマンスの劇的改善 |
2. アプローチ | デジタル技術・データ活用が起点 | 業務プロセスの見直しが起点 |
3. 対象範囲 | 企業全体、ビジネスモデル、組織文化 | 特定または複数の業務プロセス |
4. 主な原動力 | 顧客ニーズ、市場変化、技術革新 | 内部の非効率、コスト、品質問題、戦略的目標達成 |
5. 時間軸 | 中長期的、継続的 | 短~中期的、プロジェクトベースが多い |
なぜDXとBPRの連携が重要なのか?
DXとBPRは、どちらか一方だけを進めても十分な効果は得られません。両者を連携させることで、真の企業変革が可能になります。
BPRなくしてDXなし
古い、非効率な業務プロセスのままデジタル技術を導入しても、効果は限定的です。むしろ、既存の問題を助長しかねません。例えば、紙ベースの承認プロセスをそのままRPA化しても、根本的な時間短縮や意思決定の迅速化には繋がりません。
BPRによって業務プロセスを抜本的に再設計し、最適化することで、初めてデジタル技術のポテンシャルを最大限に引き出すことができます。BPRはDXの「土台」となるのです。
DXなくしてBPRの効果は限定的
デジタル技術を活用することで、これまで不可能だった抜本的かつ劇的なプロセス変革が可能になります。
AIによる需要予測でサプライチェーンを最適化したり、IoTで収集したデータから新たな保守サービスを生み出したりするなど、DXはBPRの選択肢を広げ、その効果を飛躍的に高めます。DXはBPRの「加速装置」となるのです。
このように、DXとBPRは相互に補完し合い、相乗効果を生み出す関係にあります。DXという大きな目標(What)を達成するために、BPRという手段(How)で足元を固める、というイメージを持つと良いでしょう。DXとBPRは、どちらか一方ではなく、「両輪」として一体的に推進すべきものです。
突破口は「ビジネスプロセスマップ」による可視化
DXとBPRを一体で進めるには、まず「自社の現状」を正しく、かつ全体的に把握する必要があります。しかし、多くの企業では、部門ごとに業務が最適化(サイロ化)され、事業全体の流れが見えなくなっています 。
ここで威力を発揮するのが「ビジネスプロセスマップ」です 。
ビジネスプロセスマップとは?

ビジネスプロセスマップは、「顧客の行動」と「自社の活動」の両面から、事業活動の流れ(ビジネスプロセス)を1枚の図に可視化したものです 。顧客が製品やサービスを知り、購入し、利用するまでの一連の流れ(カスタマージャーニー)と、それに対応する自社のマーケティング、営業、設計、製造、サポートといった各部門の活動、そしてシステムやデータの流れを、時系列で整理します 。
なぜビジネスプロセスマップがDX・BPRに不可欠なのか?
- 全体像の俯瞰とボトルネックの特定
部門間の壁を取り払い、事業全体の流れを客観的に見ることで、どこにムリ・ムダ・ムラがあるのか、どこがボトルネックになっているのかを一目で把握できます 。これは、経営層が的確な投資判断を下す上でも不可欠です 。 - 部門間の対話と共通認識の醸成
同じ「地図」を見ることで、各部門が自身の役割と他部門との繋がりを理解し、「この部署はこんなことをしていたのか」「ここで連携すればもっと良くなる」といった建設的な対話が生まれます 。ビジネスプロセスマップは、組織変革のための「共通言語」となるのです。 - 顧客起点での価値創造と効率化の両立
常に「顧客の行動」を起点に考えるため、自社都合の改善ではなく、真の顧客価値(CX)向上につながる施策を見つけやすくなります 。また、効率化によって生まれたリソースを、価値創造活動に再配置することも可能になります 。 - DXレベルに応じた施策の明確化
自社のプロセスがどのDXレベル(デジタイゼーション、デジタライゼーション、DX)にあるのか、どこを目指すのかをマップ上で議論することで、具体的な施策(RPA導入、ERP導入、新規サービス開発など)を的確に位置づけ、計画することができます 。
ビジネスプロセスマップでDX・BPRを推進する3ステップ
株式会社あやとりでは、ビジネスプロセスマップを活用し、以下の3ステップでDX・BPR推進をご支援しています 。

STEP1:ビジネスプロセス可視化
目的: 現状ビジネスプロセスの俯瞰的な理解と、関係者間での課題意識の共有 。
活動: 推進部門や各部署のキーパーソンが集まり、ワークショップ形式でマクロマップ(全社俯瞰マップ)を作成します 。顧客の行動と自社の主要な活動を洗い出し、付箋などを使って模造紙に貼り付けていくことで、楽しみながら全体像を掴みます 。
STEP2:BPR/DXグランドデザイン策定(全体構想)
目的: 可視化された現状(As-Is)と事業ビジョンに基づき、あるべき姿(To-Be)を描き、変革の全体像とロードマップを策定する 。
活動: マクロマップ上で課題を抽出し 、BPR/DXの目的、基本方針、重要テーマ、推進体制などを「BPR/DXグランドデザイン」として言語化・合意形成します 。ここでは、経営層のコミットメントが極めて重要です 。
STEP3:実現テーマごとに取り組みを実践
目的: グランドデザインに基づき、具体的な施策プロジェクトを立ち上げ、実行し、成果を創出する 。活動: 「基幹システム刷新」「CX改善」「業務標準化」といったテーマごとにプロジェクトチームを組成 。必要に応じて、対象領域のミドルマップやミクロマップを作成し 、詳細な課題分析や要件定義を進め、施策を実行・評価・改善していきます 。ビジネスプロセスマップは、これらの複数プロジェクトを連携させる共通言語として機能し続けます 。
まとめ:変革は「見る」ことから始まる
DXやBPRは、決して平坦な道のりではありません。しかし、その成功の第一歩は、自社のビジネスプロセスを、顧客視点で、そして全体を俯瞰して「見る」ことから始まります。
ビジネスプロセスマップは、そのための強力なツールです。それは単なる図ではなく、組織の壁を越えた対話を生み、共通の目標に向かうチームを創り、そして変革を推進する「共通言語」となります 。
もし、貴社がDXやBPRの推進に課題を感じているなら、まずはビジネスプロセスを可視化し、関係者で「同じ景色」を見ることから始めてみてはいかがでしょうか。
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株式会社あやとりでは、そのようなお悩みを解決するためのソリューションを提供しています。
DX推進・BPR支援コンサルティング:
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従業員一人ひとりが業務プロセスを正しく理解し、改善提案ができるようになることは、DX・BPR成功の基盤です。貴社の課題やレベルに合わせてカスタマイズした研修プログラムを提供し、業務プロセス可視化・改善スキルを持つ人材を育成します。
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- 編集長
- 谷川 雄亮
この記事の監修者
CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。
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