Webサイトの課題整理術~ポイントは目的の明確化と課題の優先順位付け~

 2022.11.11 2023.05.02
編集長
谷川 雄亮
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Webサイトでさまざまな施策をやってみているが思うように成果が出ない、うまくいかない…。 そのようなときは手段を実行に移すことばかりに目がいってしまい、うまくいっていない原因がちゃんを把握できていない可能性があります。このような状況を打破するカギになるのが、問題の原因をつかみ課題を的確に整理することです。 ここでは、Webサイトの課題整理をおこなうときの考え方や順番についてご紹介していきます。

目次

    Webサイトの質を上げるための課題整理の4ステップ

    「いま、何が起きているのか」と問題の根本をきちんととらえたうえで、それに適した対処方法を選択できていることが、課題解決の成功確率を高めます。課題整理を着実に進めるためのポイントは、課題を洗い出して対処すべきものに適切な優先順位をつけ、実行計画に落とし込んでいくことです。
    もちろん、課題の洗い出しの前には、何のためにそれをおこなうのかという目的の明確化が必要です。

    1. 目的と成果の明確化
    2. 課題の洗い出し
    3. 課題の優先順位づけ
    4. 課題解決策の実行計画を立てる

    順番にみていきましょう。

    ステップ1:目的と成果の明確化

    まず考えたいことは、ウェブサイトの「目的」と目指したい「成果」です。

    なぜ、目的から改めて確認しなければいけないのか

    ウェブサイトをなんのために運営しており、どのような成果を得たいのか?によって、「課題の洗い出し」の視点が変わりますし、打つべき手段の選択肢も変わってきます。ですから、改めて「なぜ、なんのためにウェブサイトを運営しているのか?」から再確認することが大切なのです。

    Webサイト運営の目的、それはサイトの種類によりますし、会社ごとさまざまでしょう。例えば「営業支援としてのWebサイトの活用」。この場合、主役である社員が活躍しやすいよう、営業活動補助としての機能をWebサイトが担うという目的になります。他にもサイト活用の目的を挙げてみますが、なかには複数の目的を持ってWebサイトを活用している組織もあるかもしれません。
    今一度、自社のWebサイトの目的を見直してみてください。

    Webサイト活用の目的役割
    営業支援主役である「社員」が活躍しやすいよう、営業活動補助としての機能
    顧客サポート既存顧客へのアフターサポートによる顧客満足度向上や継続契約受注
    海外進出海外展開の足掛かり、強化ツールとして海外のユーザー層に向けて情報発信
    CSR自社でおこなっている社会活動の紹介などにより企業ブランド力向上
    BCP緊急時における事業継続活動のためのコミュニケーションツール
    IR投資家向けに投資対象としての自社の価値訴求
    業務効率化業務プロセスを見直し、アナログでおこなっている業務をWebに置き換えることで、業務効率を高める
    社員教育社員のコミュニケーション媒体として活用し、ナレッジ共有やスキルアップ
    採用活動部署ごとの技術に特化した人材発掘に活用

    「目的や目指す成果なんていまさら確認しなくともわかりきっている」と思う方もいるかもしれません。しかし、課題をうまく抽出できない原因のひとつとして、「目的定義があいまいであった」ということは往々にしてあります。目的を改めて踏み込んで考える際にヒントになる資料をご紹介します。

    経営計画書や事業計画書

    自社の中期ビジョンが何かを確認してみてください。Webサイトで取り組んでいる施策と計画書にずれがないかどうかを確認してみることは、有効な方法です。

    特に大切なのは中期経営計画書です。中期経営計画書で示された目指す姿を達成するための手段として、デジタル活用やWebサイト運営がつながっていくものでなければなりません。

    その他にも、マーケティング計画書や各事業部門が作成している業務計画書があれば、それらもあわせて振り返りましょう。

    現状Webサイトを構築したときの計画書やRFP(提案依頼書)

    運用中のWebサイトを作った当時の計画書(新規構築計画書やリニューアル計画書)、あるいは開発業者に依頼書として提出したRFPを振り返ることも、目的確認する上で有効です。

    サイトリニューアルしたてでなければ、リニューアル計画をした当時と現在で、いろいろと事業状況が変わっていることがあるのではないでしょうか。 改めて確認をしてみると、実はまだ手を付けられていない差分が見えてくる可能性があります。

    成果の定義によって変わる、見るべきKPI

    次に何をWebサイトの成果にするのかによって、見るべきKPIは変わります。KPIが違えば、KPI達成の障壁となっている課題に対する目の向け方も変わります。

    例えば、BtoB企業の営業支援を目的としたWebサイトにおける成果の定義を考えてみます。
    次の図がBtoB企業の代表的な顧客開拓プロセスです。

    潜在客にはまず認知をしてもらう、見込み客にはWebサイト上でメールマガジン登録や資料ダウンロードを経て興味を高めてもらうしかけを作る、そして見込み度の高い顧客を営業現場で接客していく…といったプロセスになります。

    このプロセスのなかで、「見込み顧客から〇件を案件化する」という成果の定義がされているとします。しかし「見込み客は多いが、なかなか案件化につながらない」「顧客満足度を上げたいのに上がってこない」という問題点が挙がっている時にはどうしたらいいのでしょうか。
    問題となっている部分に焦点を当て、Webサイトでできることは何なのか、この過程で使用しているオンラインツールの活用によって改善できるところがないか、というように施策案を掘り下げていくことになるでしょう。

    一方で「CSRを目的としたサイトにおけるブランド認知」のWebサイトであれば、見るべきKPIは上記のようなWebサイトとは全く異なるものになるはずです。

    ステップ2:課題の洗い出し

    Webサイトの目的と目指す成果を改めて見直したら、次は課題の洗い出しです。課題の洗い出しは、公開しているWebサイトに表面化している課題と、そのようなWebサイトになってしまっている裏側の課題(運用上の課題)の2つの観点で考えることが重要です。

    公開しているWebサイトに表面化している課題

    公開しているWebサイトのことを専門的には「フロントエンド」という言い方もします。
    その名のとおり、公開しているウェブサイトは表に出ている顧客接点です。この公開中のWebサイトに表面化している改善点が表面的な課題です。

    例えば、「いいコンテンツを提供するためにどうしたらいいんだろうか」「Webサイトの使い勝手が悪いので操作性よくしたい」「フォームからの注文率を高めたい」などです。 表面的な課題を見つける方法をいくつかご紹介します。

    アクセス解析で見つける

    アクセス解析には大きく分けて「マクロ解析」と「ミクロ解析」があります。

    マクロ解析(量的分析)では、例えば、ある一定期間のサイト全体のアクセスのデータを集計することで、全体の傾向を見ることができます。他にも、その期間中のなかであれば、検索エンジンのどのキーワードからのアクセスが多くなっている、特定のこのページはアクセス数が上がっているので、需要が高まっているかもしれない、というように分析できます。

    一方ミクロ解析(質的分析)は顧客一人ひとりの行動を細かく分析するものです。

    マクロ分析とあわせてミクロ解析まで取り入れることで、顧客に利用されているシーンを想像しながら課題を洗い出すことができます。

    ユーザー行動観察から見つける

    リモートユーザーテストいうユーザーの行動観察手法があります。リモートユーザーテストでは、ユーザーがモニターを操作している様子や、その時の会話を確認することができます。ユーザーがスムーズにサイト閲覧できているか、もしくはどこで行き詰まったのかから、ウェブサイトのUXやユーザビリティの改善策を練ることができます。
    代表的なリモートユーザーテストのサービスとしては、ユーザーテストExpressがあります。

    Webサイト運営における裏側の課題(運用体制面での課題)

    例えば、「お客さまから問い合わせや注文を受けたときの対応がうまくできていない」といった問題の場合は、Webサイトそのものではなく、運用体制に課題があります。

    運用業務フロー図を作って問題分析をしてみる

    そのような場合は、まずは現状の業務フロー図を作成し、どこにボトルネックがあるのか整理してみた上で、解決策を見つけてみましょう。例えば自社でのWeb運営やオペレーションに携わっている方々の行動観察をする方法が有効です。

    Webサイトの更新システムや注文受付システムなど、いろいろなシステムを操作している場面でミスが起きる原因が、社員の注意不足という人的要因ではなく、システムそのものの仕様や使い勝手の悪さにあったということを発見できた事例もあります。

    また、業務フロー図や行動観察などとともに、組織図やプロジェクトチーム編成を再確認することも運用上の課題発見に役立ちます。問題が起きている原因がその会社の組織構造であることも多いからです。Webサイトを再構築する際に、組織構造がもたらしている問題も実は多く存在していることを意識し、組織再編成も視野に入れる必要がある場合もあります。

    日本企業に多い「レガシーシステム問題」

    システムの問題といえば「レガシーシステム問題」もあります。DX というキーワードがバズワードになってきていますが、約7割の企業では、業務改革をしていく上で昔からあるシステムやツールを使っていること自体が足かせとなって、改革が思うように進まないという問題が起きています。
    既存のシステムやインフラを見直し、システム間で連携されていないことによって二重登録してしまっていないか、無駄に時間がとられてしまっている部分はないかなど、整理をしていくことも必要でしょう。

    表面的な課題と運用上での課題をまとめて発見するには

    ウェブマネジメント・アカデミーを運営しているあやとりのサービスに「ビジネスプロセスマップ」というものがあります。「顧客の行動シナリオ」と「自社の各部門業務」の両面からサービスプロセス全体を1枚の図にまとめたもので、表面的な課題と運用上の課題を同時に見つけることに有効です。

    ビジネスプロセスマップの例

    顧客接点となるフェーズに沿って、上の半分に顧客となる人たちがどんな行動をとっているのか、どのようなサービス利用しているのかを入れていきます。

    同時に、自社の各部門やチームがその顧客行動に合わせてどのようなアクションをしているのかを下半分に埋めていきます。

    多方面からの情報を1つのサービスプロセス図にまとめることで、つながりの悪さやできていないことを見つけ出すことができ、あわせて解決方法を発見することにつながります。

    ※ビジネスプロセスマップの活用法は「ビジネスプロセスマップ作成講座」(別サイトで開きます)で詳しく解説しています。

    課題を洗い出す際の注意点

    さまざまな課題洗い出し手法をご紹介しましたが、課題洗い出しにあたって注意すべきことが2つあります。

    うまくいっていない根本的な原因に目を向ける

    「アクセス数や注文率が上がらない」「問い合わせ対応が遅くお客さんを待たせている」「質が悪い記事が自社サイトにあがっていて修正作業に工数を費やしてしまっている」などの悩みを耳にすることがありますが、これらはあくまでも課題として表面化している症状にしかすぎません。症状をいたちごっこのように対処しても、根本的原因が何なのかを考えなければまた同じ問題が発生します。質が悪い記事が出てしまっている原因は、「更新作業の承認プロセスに問題がある」「企画の取捨選択時の判断に問題がある」というように、根本的な原因が他にある可能性があります。まずは、これは症状なのか、症状を引き起こしている根本的な原因なのかを考えてみてください。

    調査やテストをおこなうときには、評価者の認知バイアスに気をつける

    ユーザー行動観察から見つける方法でも少し注意点として触れましたが、これらの調査にはさまざまな認知バイアスが潜んでいることを意識しておきましょう。アンケートやインタビューはどのようなタイトルをつけるかで回答者の答えが変わることもあります。設問設計も何も考えずにしていると、重要な意思決定の判断を歪める危険もありますので、注意が必要なところです。

    ステップ3:課題の優先順位づけ

    さまざまな課題を発見したら、次におこなうのは「何から手を付けるか」を決めることです。課題対応の優先順位付けを考える方法をいくつかご紹介します。

    緊急需要マトリックス

    チームメンバーで付箋を使いマッピングしてくという方法です。洗い出しのなかで見つけた課題をマッピングし、重要かつ緊急であるものを見つけ出すことに有効です。

    しかし、何が重要で緊急なのかは人によって意見が違ってきますので、共通認識を得るためにも、チームメンバーやかかわるさまざまな部署の人たちとワークショップをして意見をすり合わせるという工程をふみましょう。

    4YA分析

    そもそも、優先順位を決める段階でつまづいてしまうときには、やらないことを決めてみましょう。4YA分析はそのようなときにおすすめです。これは先ほどのマトリックスと似ていますが、少し視点が違います。「やれる・やれない」という軸と「やりたい・やりたくない」という気持ちの面の軸があります。

    「やりたい・やりたくない」といった視点を仕事に持ち込んではいけないと言われがちですが、実はこの視点、とても重要です。なぜなら、持続的にクオリティの高いものを提供するには、本当に「やりたい」と思って取り組むものほど高いモチベーションを保てるため、結果的には質が良くなり成果につながることが多いのです。

    その視点で優先度をつけると、「やりたい」かつ「やれる」ことが最優先になりますし、「やりたい」が現在は「やれない」ことは次の打つ手になってきます。「成功していて維持する」こともここで可視化できるといいでしょう。

    一方で「やれる」けれども「やりたくない」とことには、できればそこに取り組まずに済むような方法を考えます。「やれない」かつ「やりたくない」ことはやめるという判断(誤って手をつけてしまわないような判断)も必要です。

    実は、「新しいことをやらなければいけない」ということばかりを考えてしまって、やらないことを決められない企業や組織は多くあります。ぜひ、この4つの視点も課題の優先順位を考える上で参考にしてください。

    KPT分析

    KPTとは「Keep Problem Try」の略になっています。「維持することを決める」ためにおすすめの手段です。

    • Keep …いままでうまくいっていること、このまま継続したいこと
    • Problem …課題と問題点
    • Try…KeepとProblem両方の視点でいままでの活動を振り返り、その結果をもとに次に何をやるか

    課題を発見しようとすると、できていないことであるProblemの部分ばかりに目がいってしまいます。しかし大切なのは、Keepする部分が何なのかということを踏まえた上で施策判断していくことになります。

    ステップ4:課題解決策の実行計画を立てる

    対処すべき課題が決まったら、具体的な実行計画に落とし込みます。Webサイトにおける実行計画を練るにあたっては「今のWebサイトを直すことで良くしていくのか」「抜本的にリニューアルをして作りかえるのか」が大きな判断の分かれ目になります。

    現状のWebサイトを直して改善する場合の注意点

    運営しているWebサイトに対して、ポイントを絞ってPDCA改善をおこなう方法です。この場合、PDCAのプロセスをどのように回すか、体制整備が重要です。やみくもにPDCAサイクルを回そうとすると、得られたデータをただ見つめるだけで終わってしまうということがあります。

    実際には、このPDCAサイクルをもとに課題の棚卸しをして対策方針を練るプロセスをどのような会議体のもと、誰がどう決めるかまで定めないと、うまく回りません。

    やりっぱなしにならないように、PDCAのマネジメントプロセスをはっきりさせるて取り組みましょう。

    Webサイトリニューアルをする場合の注意点

    たくさんの課題があがり、現状サイトをメンテナンスし続けるだけでは根本的課題解決につなげられない場合もあります。このようなときは、Webサイト全体を根本的に作り直す「Webサイトリニューアル」に踏みこむことになります。

    Webサイトリニューアルが成功するかどうかは、実はWebサイトをつくり始める前の段階でほとんどが決まります。やりたいことと課題を整理して提案依頼書をつくって業者選定をする、というプロセスを踏めているかどうかというところに加え、課題を要求一覧としてうまく業者に伝えられるかも重要なポイントです。

    この要求一覧には、やりたいことではなく具体的にどんな要求があるのかが整理されている必要があります。ここがきちんとできていないと、その先の見積もりが困難だったり、業者からの提案も的外れなものが出てきてしまったりする可能性があります。優先順位はもちろんのこと、必須なのか推奨なのかなどを正確に伝えられるような作りにしましょう。

    いずれの場合にも意識したいのがロードマップをつくること

    いずれの場合も、着実に成果を高めるためには、中期的視点でロードマップを描くことが大切です。

    目先に何を達成したいのかだけではなく、中期的(半年後、3年後など)の視点からウェブサイトの活用経過を逆算することや多面的に取り組むことを考えれば、何をどのような順番で手をつけるかを明瞭にすることにつながります。

    最後に

    これからの時代、新たな価値を生み出すため、またサービスをより良いものに変えていくために、Web やITに対して求められている質が変わってきています。
    Web運営チームのあり方を再確認するところからスタートすると、一歩先へ進んだWebサイト活用のあり方が見えてくるのではないかと考えています。

    編集長
    谷川 雄亮

    この記事の監修者

    PMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。

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