サイトリニューアルの要求定義(要件定義)を失敗しないための重要整理ポイント10選

 2022.08.26 2024.08.08
編集長
谷川 雄亮
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要求定義とは委託先業者に要件定義を進めてもらうための基礎情報として、事業主としてやりたいことや解決したい課題をまとめることです。 本記事では、要求定義を進める手順と、要求を洗い出してうまく整理するための重要ポイントを解説します。

目次

    ウェブサイトリニューアルにおける要求定義工程の位置づけ

    要求定義とは?要件定義とは何が違う?

    要求定義とは、「ウェブサイトをリニューアルしたらこんなことを表現したい」「こんな業務ができるようにしたい」という事業主としてのやりたいことや解決したい課題をまとめることです。
    ウェブサイトリニューアルをする場合、設計や開発を始める前に要件定義という工程があります。要件定義はデザイナーやエンジニアなどの技術者が、技術的にどのような方法で実現させるか決めていく工程です。
    つまり、依頼主のやりたいことをまとめ要求定義の内容をインプット情報として、技術者が要件定義をおこなうことでリニューアルの目的を実現するための方法が定まります。
    要件定義と要求定義を混同して紹介している記事もよく見かけますが、受発注の関係のなかで事業者側のウェブ担当者としてやるべきことと、委託先業者に任せられることを切り分けるためにも、区別して理解することがたいせつです。

    要求定義と要件定義の関係性を動画でチェック!

    要件定義と要求定義の違いを詳しく知りたいかたはこちらの記事もチェック!

    http://web-management-academy.net/w/www/article/relationship-between-request-for-proposal-requirement-definition-document-requirements-specification/

    なぜ要求定義が重要なのか?

    上述の通り、要求定義とは事業主として、ウェブサイトで実現したいことをまとめた情報です。
    デザイン制作やシステム開発を請け負う技術者はその道のプロであり、経験と知見が豊富な専門家です。しかし、依頼主の企業がどのような事業環境でビジネスをしており、どのような課題を抱えているかについては素人です。したがって、自分たちの要望を抜けもれなく正確に伝えることは、技術者のスキルを引き出し、成果が出るウェブサイトに生まれ変えるためには不可欠です。

    家づくりに例えるとイメージしやすいかもしれません。どんなに高品質な部材を使って高度な技術で家がつくれる建築会社だったとしても、施主がどのようなライフスタイルで、新しい家でどのような暮らしをしたいのかがはっきりしていなければ、理想の家の建て方は提案できないですよね。

    うまく要求定義を実施するための8ステップ

    それでは、そのような重要な要件定義はどのような手順で進めていけばよいのでしょうか?
    大まかには、次の8ステップになります。

    STEP1.リニューアルの目的とゴールを明確にする

    「なぜリニューアルをしたいのか」「リニューアルによって具体的にどのような成果を達成したいのか」を明確にします。リニューアルそのものが目的化してしまわないよう、ウェブ戦略の上位文書である経営計画書、事業計画書、マーケティング戦略策定書などもていねいに確認します。それらを経て、ウェブサイトが担うべき役割やリニューアル公開までの全体スケジュールや予算などを整理し、プロジェクト計画書としてまとめます。

    STEP2.要求定義工程の最終成果物と進め方を認識合わせする

    リニューアルの目的とゴールが定まったら、要件定義工程で最終的にどのような成果物ができていればよいかを関係者で認識を合わせます。
    一般的には「要求定義書」と「要求一覧」が要件定義工程のアウトプットとしては基本です。
    それでは、どのようなことが具体的に記述できていれば、現状の抱えている課題や新サイトでやりたいことが俯瞰的に把握できているといえるでしょうか?
    目標成果物の合意形成ができたら、その成果物をつくるためにはどのようなタスクが必要で、どのような手順で進めるかをゴールから逆算して決めていきます。

    STEP3.リニューアル対象サイトの「現状」を整理する

    要求を洗い出すためには、その前に現行ウェブサイトの状態を正確に把握しておく必要があります。しかし、構築時の仕様書がちゃんと残っていなかったり、コンテンツやシステムの継ぎ足し改修を積み重ねたことで俯瞰的に把握できるドキュメントがなかったりと、現状が正確に把握できない状況におちいっているケースも多いです。手間を考えると過去に作成済みの資料集めることで状況整理ができることが望ましいですが、十分な資料がなければ新たに作成することも必要となります。

    STEP4.新サイトで大事にしたい「顧客像」を具体化する

    顧客起点でウェブサイトの要求定義をするために、新サイトを利用してもらう顧客の姿を具体的に整理します。顧客層をセグメント分けし、それぞれの顧客層がウェブサイトを利用するシーンやそのときのニーズを考え、どのような顧客体験を提供し、どのような関係性を築きたいのかをまとめます。

    STEP5.現状サイトの問題点(解決したいこと)を棚卸しする

    整理した現状サイトの状態を考察して、障壁となっている問題点を洗い出します。
    つまり、STEP5は過去を分析することでこれまでに抱えていた問題を解決するための課題を洗い出す活動です。
    コンテンツ面、デザイン面、システム面、インフラ面、業務フロー面、運営管理体制面など、さまざまな観点でどのような解決したいことがあるかを書き出します。

    STEP6.新サイトで新たに実現したいことを棚卸しする

    STEP5で過去からの振り返りを行う一方で、変革を生み出すためには、これまでの実情にとらわれずに未来から逆算して新たに実現したいことを考えることも求められます。
    5年後に自分たちの事業がどのようになっていたいのかを描き、その未来を実現するためにウェブでできることを書き出していきます。
    新たに取り組むことを考えるにあたっては、外部環境がどのように変化の仮説を立てたり、競合他社はどのような方針で取り組んでいるのかを分析したり、今後伸びていくウェブの最新技術動向にアンテナを張ることがたいせつです。

    STEP7.関係者と話し合い、方向性の合意形成をする

    STEP5やSTEP6で要求事項の素案が洗い出せたら、ウェブサイトが業務に影響を与える関係各部署に対して説明をおこないます。リニューアルの方向性が誤っていないか、要求事項に抜け漏れはないかなどについて話し合い、合意形成をします。

    STEP8.要求定義書や要求一覧として文書化する

    最後に、ウェブサイトリニューアルで実現したいことの全体像を説明する要求定義書や、技術領域ごとに要求仕様を具体的列挙する要求一覧などを、要求定義工程の成果物として文書化し、決裁者の承認を得ます。

    要求定義を失敗しないための重要整理ポイント10選

    1.予定通りに進めづらいプロジェクトの成功要因を整理する

    ウェブサイトリニューアルはまさに「不確実性が高い未知のプロジェクト」です。したがって、プロジェクトがすべて予定通りに進むということはまずありません。プロジェクトの走り出しである要求整理工程はとりわけ不確実性が高く、思い通りに進まずに右往左往してしまいがちです。不安にならずに安心してプロジェクトを進めるためにも、成功要因と不測の事態が起きたときの対処方法を整理しておきましょう。
    当社の場合は前田考歩氏と後藤洋平氏が開発した『プロジェクト譜』も活用しています。

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    2.顧客体験の「つながり」をデザインする

    ウェブ担当者になると、ついついウェブサイトへの思いが強くなり、「ウェブサイトがあらゆる課題の解決策である」と過剰に期待してしまいがちです。
    しかし、顧客にとっても自社にとっても、ウェブサイトは顧客と自社をつなぐ手段のひとつにすぎません。たいせつなのは、ウェブサイトだけで考えるのではなく、顧客とのあらゆる接点を洗い出して顧客に寄り添って顧客体験を高めるためのストーリーをつないで考えることです。
    媒体手段にとらわれずに接点を洗い出したうえで、ウェブサイトが果たすべき箇所を特定していきましょう。
    当社では、顧客接点の全体フローを整理するためのフレームワークとして、ビジネスプロセスマップを活用しています。

    3.ウェブサイトをつくりなおすことで期待できる各部署の「助かった」を見つける

    関係部署と要求事項の協議をする際、ウェブ担当者として「こういうことをしたい」「こうあるべきだ」と一方的に伝えてしまいがちです。
    そうではなく、「あなたの業務において(部署のミッション遂行において)抱えている課題に対して、ウェブサイトがこのように機能すると助かるということはありますか?」といったかたちで、相手の立場に寄り添った問いかけをしてみましょう。ウェブで解決できる、隠れていた課題がさらに見つかります。これは上記の顧客体験の全体最適化にも寄与します。

    4.要求一覧は技術領域別に仕分けてつくる

    既にご紹介したとおり、具体的な要求事項を箇条書きで並べた要求一覧をつくる必要があります。
    先の工程である要件定義や設計開発をうまく進めていくためには、要求一覧は技術領域別に分けて整理しましょう。このようにすることで外部業者に委託すべき範囲を取捨選択したり、領域ごとに適切な委託先を使い分けたりすることもできます。
    当社では要求一覧はExcelでつくることが多いですが、以下のようにシートを分けて作成しています。まとめ方は、プロジェクトの規模によって調整しています。

    設計/デザイン要求新サイトの構造設計、テンプレート画面設計、テンプレートデザイン制作、テンプレートHTML制作に関する要求
    システム要求新サイトの基盤システムとして構築するCMSやDAMなどの機能や仕様に関する要求
    インフラ要求新サイトを稼働するために必要なインフラ環境に関する要求
    データ移行/コンテンツ制作要求現行サイトからのコンテンツ移行登録や、新規コンテンツの制作に関する要求
    運営体制整備要求ガイドライン作成やウェブ担当者への教育研修など、適切で効果的なウェブサイト運営ができる体制整備や人材育成に関する要求
    保守/運営支援新サイト稼働後の運営支援やシステム保守に関する要求
    ウェブ解析要求アクセス解析ツールの導入、解析設計やタグカスタマイズ、解析ツール設定に関する要求
    ウェブ集客要求ウェブ広告出稿、SNS運営、SEOなど、リニューアルしたウェブサイトへの集客に関する要求
    組織内部課題要求別プロジェクトとの連携や組織内調整、ウェブ戦略よりも上位レベルで決めなければならないマーケティング戦略の具体化など、リニューアルと並行して取り組むべき自社組織内部の課題解決要求(この要求一覧の提示先は業者ではなく社内関係者)

    5.自社都合ではなく顧客視点で「本当に必要なこと」を選別する

    要求一覧は洗い出した後に、「顧客への価値提供に本当に貢献するのか?」という視点で各項目を点検しましょう。顧客への便益につながることではなく、自分たちが都合よく仕事をするための自社都合の要求事項が混じっていることがあります。こういった要素は排除します。

    6.短期、中期、長期でスコープ分けをする

    要求を書き出す「発散」段階では、もっている予算や工期に対してやりたいことが膨れ上がってしまうことがほとんどです。要求事項は優先度や緊急度の観点で重みづけをし、今回のリニューアル開発で必ず盛り込むべきものと、次フェーズ以降に先送りしてもよいものに仕分けましょう。
    欲張らずにやることを絞りこむことが、結果的により早く新サイトを公開し、新しいプラットフォームでのデジタルマーケティングに着手できることにつながります。

    本スコープ内今回のリニューアル開発のスコープ内として実施する
    次期スコープ今回のリニューアル開発が終わった後の次期拡張開発時のスコープとして実施する
    別プロジェクト化今回のリニューアル(委託範囲)には含めないが同時並行で別プロジェクト化して実施する。外部委託が必要な場合は、別途業者を選定する
    却下(実施しない)顧客価値提供への寄与度が低いため、実施しないこととする

    7.RFIをつくって業者に情報提供を依頼し、解決策の見当をつける

    技術的知見がない社内メンバーで洗い出した要求事項は、相容れない要求が併記されていたり、実現できる技術がまだ一般的に存在しないものが混じってしまっていたりすることがあります。

    要求整理ができてRFPで提案依頼をしても、「できます」という会社が一社もなければ、出だしからプロジェクトが滞ってしまいます。そのようなリスクが高そうな場合は、要求事項の大枠がつかめてきた段階で、RFI(情報提供依頼書)を作成して、候補業者に解決策となるソリューションがありそうか情報提供を依頼してみることがプロジェクト停滞の予防策となります。

    8.要求整理を進める過程で、社内協力者との関係性の質を高める

    ウェブサイトリニューアルは、さまざまな部署の協力を得ながら進めなければ実現できないプロジェクトです。要求整理工程は、社内関係者との信頼関係を築くよい機会にもなります。なかにはウェブサイトに資金や人員を投資することに懐疑的な人もいるかもしれません。ウェブ担当者としてあふれるタスクをこなして先を急ぐばかりではなく、社内関係者と腹を割ってじっくりと意見を交わす時間をつくりましょう。

    9.ウェブ戦略よりも上位レベルで定義すべきことはないかを確認する

    私がさまざまな企業の要求整理工程を伴走していると、「そもそもマーケティング戦略が具体的に定まっていないから、それを受けてウェブサイトで果たすべき役割が決められない」といったように、より手前の段階で会社として定義すべきことが十分にできていない事態にたびたび直面します。ウェブ戦略よりも上位レベルで協議すべきことが見つかった場合は、しかるべき権限をもった役職者にフィードバックし、判断を仰ぐようにしましょう。

    http://web-management-academy.net/w/www/article/marketing-process-check/

    10.なぜリニューアルをするのかを改めて問いなおす

    ここまでで9つの重要ポイントをご紹介してきましたが、最後に再確認すべきは、「結局のところ、なぜウェブサイトリニューアルに着手する必要があるのか」を改めて問いなおすことです。
    ウェブサイトリニューアルは、工期も長く、大きな予算もかかります。大きな期待効果もありますが、失敗リスクも伴います。「なぜやるのか」について関係者全員が納得感をもてていない状態ならば、要求定義がまだ煮詰まっていないのかもしれません。

    要求定義が終わったら、次に何をするのか

    リニューアル開発を任せる業者が決まっている場合

    リニューアル開発を任せる制作会社やシステム開発会社が既に決まっている場合は、作成した要求仕様書や要求一覧を提示して、要件定義工程へと進みます。

    リニューアル開発を任せる業者を選びなおす場合

    委託業者を選びなおす場合は、RFPを作成して業者選定をしてから、要件定義工程へと進みます。

    要件定義工程の流れとポイントのまとめ

    混とんとしていて、何をどのような手順で進めたらよいかわからない要求定義工程について少しは進め方のイメージがつかめたでしょうか?
    振り返りとして、要件定義工程の流れとポイントをまとめます。

    • 要求定義とは、「ウェブサイトをリニューアルしたらこんなことを表現したい」「こんな業務ができるようにしたい」という事業主としてのやりたいことや解決したい課題をまとめることで、要件定義のインプット情報となる
    • 要件定義は事業主(依頼主)主導で進める工程で、目的整理→現状把握→顧客理解→問題整理→新たな取り組み整理→関係者と協議→文書化という手順で進める
    • 顧客視点を大事にしながら、社内の関係部署とよい関係を築きながら「ウェブでできること」を洗い出していく
    • そもそもなぜリニューアルするのかを繰り返し問いなおす

    皆さんのウェブサイトの要求整理を進める参考になれば幸いです。

    要求整理がうまく進められずにお困りの方へ

    経験豊富なコンサルタントが要求整理工程を伴走します

    ウェブマネジメントアカデミーを運営しているあやとりでは、ウェブサイト要求定義工程の伴走コンサルティングもおこなっております。自力ではうまく進められずにお困りの方はご相談ください。

    お役立ち資料:ウェブサイトの課題整理術

    当社がおこなったウェビナーの資料ダウンロードとアーカイブ動画視聴ができます。

    編集長
    谷川 雄亮

    この記事の監修者

    CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。

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