ビジネスプロセスの工程を定量化して分析・改善を進める手順

ビジネスプロセスの改善効果を正しく把握するには、業務の「量」を定量的に捉えることが欠かせません。 業務プロセスの可視化・分析において、定量的アプローチがなぜ重要なのか、そしてどのように実践すべきかをご紹介しながら、業務量をどのように数値化し、そしてそのデータを基に改善効果を評価するかについて解説します。
1.変革対象の業務プロセスを選定(主要なアクティビティを特定)
まずは、対象となる業務のたな卸しから始めます。有効な方法として、ビジネスプロセスマップがあります。
ビジネスプロセスマップは、顧客、自社、ステークホルダー間の関係性を俯瞰し、事業全体の価値創造プロセスを整理できるため、業務プロセスを可視化することに有効です。
ビジネスプロセスマップを使って、まずは変革対象とするプロセスを選定しましょう。
2.現状の業務データを収集
(1) 時間計測とログ分析
業務プロセスの可視化ができたら、それをもとに、アクティビティごとの 作業時間・労力・ムダ を測定、ボトルネックがどこにあるかを特定していきます。
① ストップウォッチ計測(手動)
・メリット:簡単に実施できる
・デメリット:人による誤差が生じやすい
方法
・各業務担当者がストップウォッチを使い、業務開始から完了までの時間を記録する
・ExcelやGoogleスプレッドシートに作業内容と時間を入力し、分析できるようにする
例えば、「受注処理1件にどれくらいの時間がかかるのか?」 を「受付→入力→承認→出荷指示」など、流れに沿って手動で測定することが考えられます。
ポイント
・記録対象を明確にし、複数回計測することで平均時間を算出する
・各工程の 「待ち時間」「手戻り時間」 も記録し、ムダの特定に活用する
② システムログ分析(自動)
・メリット:客観的なデータが取得できる
・デメリット:ログ取得できない業務には適用できない
手順
・業務システム(ERP・CRM・SFAなど)の操作ログを活用し、業務の所要時間を自動計測する
例えば、Salesforceの「営業活動履歴」から、1回の商談にかかる平均時間を分析してみます。SAPなどのERPシステムでは、業務プロセスごとの処理時間をレポート化することも可能です。
ポイント
・手作業と異なり、人為的な記録ミスが発生しない
・システムが対応していない業務には適用できないため、補完が必要となる
③ RPAツールで作業時間を記録
・メリット:自動計測で人為的ミスを防げる
・デメリット:導入コストがかかる
方法
・UiPath, Power Automate, WinActor などのRPAツールを使い、作業の流れと所要時間を記録する
例えば、「請求書処理のクリック数・入力時間をRPAで測定し、非効率な動作を可視化」 することが考えられます。
ポイント
・手作業の細かい動作(クリック数や入力回数)までデータ化可能
・導入にコストがかかるため、頻繁に実行される業務に適用すると効果的
(2) 作業ボリュームの測定
アクティビティごとの業務負荷を数値化する作業になります。
① 処理件数の測定
方法
・1日・1週間・1か月あたりの作業件数を記録し、業務負荷を定量化
「1人の営業担当が1日10件の商談を実施」「受注処理の平均件数が50件/日」などが例に挙げられます。
ポイント
・処理件数が多い業務は、効率化の余地がある可能性が高い
・システムから自動取得できる場合は、日次・月次レポートで継続監視
② エラー率・手戻り率
方法
・各業務のエラー発生件数を記録し、手戻り率を算出
例えば、「見積書作成のうち、30%が修正対応が必要」なら、手戻り率30%となります。
ポイント
・手戻りが多い業務は、ルールの明確化や標準化で改善可能
・「なぜエラーが発生するのか?」 の原因分析も併せておこなう
③ リードタイム測定
方法
・業務プロセス全体のリードタイム(開始から完了までの総時間)を測定する
「契約書の承認プロセスに平均3日かかる」「社内決裁プロセスに5営業日要する」など、工数を算出します。
ポイント
・業務の停滞要因(ボトルネック)がどこにあるのかを特定しやすい
・承認待ちや確認作業にかかる時間を削減することで、全体の生産性を向上可能
3. 工数や無駄の定量化
作業の中で発生してしまっている不要な時間やリソースの消費を特定し、見直せる部分が無いかを見つけ出します。
(1) 無駄(ムダ)の洗い出し
① ECRS分析(Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify)にあてはめた見積書作成プロセス(例)
Eliminate(排除) | 不要な作業を無くせるか? | 例: 上長のダブルチェックを不要に |
Combine(結合) | 複数の作業をまとめられないか? | 例: 見積作成と発注書作成を一元化 |
Rearrange(順序変更) | 作業の順番を最適化できないか? | 例: 営業と経理の確認順序を変更 |
Simplify(単純化) | 作業を簡略化できないか? | 例: テンプレートを標準化し入力項目を削減 |
ポイント
・既存プロセスをそのまま改善するのではなく、抜本的な変更を検討する
例えば「承認プロセスのステップを減らす」「入力作業を自動化する」などが考えられます。
② 7つのムダ分析
- 手待ちのムダ(承認待ち時間)
- 過剰処理のムダ(不要な手順)
- 移動のムダ(情報が複数部門を行き来)
- 在庫のムダ(不要なデータや書類の蓄積)
- 動作のムダ(非効率な画面操作)
- 作りすぎのムダ(過剰な資料作成)
- 欠陥のムダ(エラーによる修正作業)
例:経費精算
・「承認待ちのムダ」を削減 → 自動承認ルールを設定
・「移動のムダ」を削減 → モバイルアプリで入力可能に
ポイント:
・「なぜこのムダが発生しているのか?」の 根本原因 を分析する
・「ムダがなければ、どれだけの時間が削減できるか?」 を定量化する
4. 期待価値の定量化
対象プロセス箇所の合理化や改善することで、どのような価値が期待できるかを試算します。
(1) 収益貢献度の定量化
売上への影響を数値で示し、成約率・単価・工数削減をKPIにしていきます。
■ 売上貢献度
アクティビティ(営業活動・受注処理など)が売上に与える影響を数値で測る
・例1:営業支援ツール導入前後の 成約率の変化(例:20% → 25%)
・例2:リードの 商談化率の向上(例:商談化率10% → 15%)
・例3:平均受注単価の変化(例:150万円 → 170万円)
・例4:営業1人あたりの月間売上高の増減
- 測定方法:
- 導入前後の売上データを収集
- 「アクティビティ実施あり」と「実施なし」グループの売上を比較
- 営業プロセスごとの影響を細かく分析(商談件数、成約率、平均単価など)
ポイント:
・アクティビティが「どのフェーズで」「どの程度」売上に影響を与えたか分解する
・売上貢献が間接的な場合(例:マーケティング施策)もあるため、相関関係を把握する
■ コスト削減額
効率化によって削減できるコスト
・例1:業務時間の短縮(例:営業資料作成が1回3時間 → 1時間に短縮)
・例2:人的リソース削減(例:月10時間の工数削減 × 100名 = 1,000時間削減)
・例3:システム導入による紙・郵送コストの削減
測定方法:
- 現在の業務コストを算出(作業時間 × 時給)
- 施策導入後のコストを算出
- 差分を計算し、年間のインパクトを見積もる
ポイント:
・時間削減だけでなく、削減した時間をどう活用できるかを明確にする
・コスト削減効果が長期にわたるか、単発のものかを区別する
(2) 顧客満足度への影響
■ NPS(ネットプロモータースコア)
KPI例:顧客満足度の変化
・例1:NPSスコア(-10 → +5へ改善)
・例2:推奨者(スコア9~10)の割合向上
測定方法:
- 施策導入前後でNPSアンケートを実施
- 「推奨者(9-10)」「中立者(7-8)」「批判者(0-6)」の割合を分析
- 改善点を特定し、次のアクションに活かす
ポイント:
・スコアだけでなく、顧客の具体的なコメントも分析する
・「なぜスコアが向上/低下したか」を明確にし、改善サイクルを回す
■ クレーム件数の変化
KPI例:クレーム数の減少
・例1:月間クレーム件数が20件 → 10件へ減少
・例2:対応時間が短縮(例:平均対応時間1時間 → 30分)
測定方法:
- クレーム件数をカテゴリ別に記録(品質・納期・対応など)
- 施策導入前後で変化を分析
- クレーム原因を特定し、対策を実施
ポイント:
・件数だけでなく、クレームの種類別の傾向を分析する
・「クレーム件数減少=満足度向上」とは限らないため、他の指標と併用する
(3) 内部価値(従業員の業務満足度)
■ 従業員アンケート(業務負荷・ストレスレベル)
業務満足度・ストレスレベルの変化
・例1:「業務負荷が高い」と感じる割合 60% → 30%へ改善
・例2:業務時間の短縮(例:残業時間 40h/月 → 20h/月)
測定方法:
- 施策導入前後で業務満足度アンケートを実施
- 「業務負荷・ストレス」「業務効率」「成長実感」などの項目を評価
- 結果を部門別・職種別に分析
ポイント:
・具体的な課題と改善点をアンケート結果から抽出する
・数値だけでなく、フリーコメントの内容も分析する
■ エンゲージメントスコア
従業員のモチベーション・組織貢献度
・例1:エンゲージメントスコア 60 → 75へ改善
・例2:離職率の低下(例:5% → 3%)
測定方法:
- エンゲージメント調査ツール(ex. モチベーションクラウド)を活用
- 各項目のスコアを記録し、傾向を分析
- 改善施策を打ち、継続的にモニタリング
ポイント:
・エンゲージメント向上には「業務効率」「キャリア成長」「職場環境」の3軸で施策を考える
・数値が向上した要因を特定し、成功事例を横展開する
5. プロセス改善施策の実行
プロセス改善を効果的に進めるためには、KPIデータを基に課題を特定し、具体的な改善施策を計画・実行していくことが必要です。
① 課題の特定と改善施策の計画
方法:
・KPIデータや現場のフィードバックをもとに、業務プロセスの課題を分析
・改善施策を策定し、効果検証が可能な形で計画を立案(具体的な数値目標を設定)
例:
・営業成約率が低い → 商談プロセスの見直し(トークスクリプトの改善・提案資料の最適化)
・顧客満足度が低下 → フォローアップの仕組み強化(定期チェックインの導入・カスタマーサクセスの拡充)
・従業員の業務負担が大きい → 業務自動化(ワークフローシステムの導入・RPA活用)
② 施策の実行と現場への適用
方法:
・計画した施策を段階的に実行し、影響範囲を見極めながら導入
・小規模な試験導入(PoC)を実施し、効果を確認
・必要に応じて、現場のオペレーションやマニュアルを更新
例:
・新トークスクリプトを一部の営業チームでテスト
・フォローアップ施策を特定の顧客セグメントに限定して導入
・RPAを一部業務に適用し、効果を測定
6. KPIをモニタリングし、改善サイクルを回す(継続的な最適化)
プロセス改善施策を実行した後は、その効果を測定し、継続的に最適化する必要があります。「測定→分析→施策の調整」を繰り返す仕組みを確立することで、改善を継続しましょう。
① KPIのモニタリングとデータ分析
方法:
・KPIをリアルタイムで監視し、定期的に進捗を確認
・BIツールやダッシュボードを活用し、データを可視化
ポイント:
・成約率や商談成功率の推移を確認
・顧客満足度(NPS、クレーム件数)の変化を分析
・従業員アンケートを継続的に実施し、業務負荷や満足度を評価
② PDCAサイクルを実施し、継続的に最適化
方法:
Plan(計画) | モニタリング結果をもとに、新たな改善施策を計画 |
Do(実行) | 施策を試験的に実施 |
Check(評価) | KPIの変化を確認し、効果を評価 |
Act(改善) | 効果があった施策は本格導入、効果が限定的な場合は別のアプローチを検討 |
ポイント:
・トークスクリプトの変更後、成約率のデータを分析し、さらなる調整を実施
・フォローアップ施策のNPSへの影響を確認し、改善ポイントを特定
・自動化ツールの導入後の業務時間削減効果を測定し、対象業務を拡大
③ モニタリングと改善を定着させる仕組みづくり
方法:
・定期的なレビュー会議を設定し、KPIの進捗をチェック
・各部門がデータを活用できる環境を整備(BIツール導入、レポート共有)
・組織全体でPDCAを回す文化を醸成する

- 編集長
- 谷川 雄亮
この記事の監修者
CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。
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