ビジネスプロセスの工程を定量化して分析・改善を進める手順

 2025.03.07 2025.07.08
編集長
谷川 雄亮
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ビジネスプロセスの改善効果を正しく把握するには、業務の「量」を定量的に捉えることが欠かせません。 業務プロセスの可視化・分析において、定量的アプローチがなぜ重要なのか、そしてどのように実践すべきかをご紹介しながら、業務量をどのように数値化し、そしてそのデータを基に改善効果を評価するかについて解説します。

目次

    1.変革対象の業務プロセスを選定(主要なアクティビティを特定)

    まずは、対象となる業務のたな卸しから始めます。有効な方法として、ビジネスプロセスマップがあります。

    ビジネスプロセスマップは、顧客、自社、ステークホルダー間の関係性を俯瞰し、事業全体の価値創造プロセスを整理できるため、業務プロセスを可視化することに有効です。

    ビジネスプロセスマップを使って、まずは変革対象とするプロセスを選定しましょう。

    2.現状の業務データを収集

    (1) 時間計測とログ分析

    業務プロセスの可視化ができたら、それをもとに、アクティビティごとの 作業時間・労力・ムダ を測定、ボトルネックがどこにあるかを特定していきます。

    ① ストップウォッチ計測(手動)

    ・メリット:簡単に実施できる

    ・デメリット:人による誤差が生じやすい

    方法

    ・各業務担当者がストップウォッチを使い、業務開始から完了までの時間を記録する

    ・ExcelやGoogleスプレッドシートに作業内容と時間を入力し、分析できるようにする

    例えば、「受注処理1件にどれくらいの時間がかかるのか?」 を「受付→入力→承認→出荷指示」など、流れに沿って手動で測定することが考えられます。

    ポイント

    ・記録対象を明確にし、複数回計測することで平均時間を算出する

    ・各工程の 「待ち時間」「手戻り時間」 も記録し、ムダの特定に活用する

    ② システムログ分析(自動)

    ・メリット:客観的なデータが取得できる

    ・デメリット:ログ取得できない業務には適用できない

    手順

    ・業務システム(ERP・CRM・SFAなど)の操作ログを活用し、業務の所要時間を自動計測する

    例えば、Salesforceの「営業活動履歴」から、1回の商談にかかる平均時間を分析してみます。SAPなどのERPシステムでは、業務プロセスごとの処理時間をレポート化することも可能です。

    ポイント

    ・手作業と異なり、人為的な記録ミスが発生しない

    ・システムが対応していない業務には適用できないため、補完が必要となる

    ③ RPAツールで作業時間を記録

    ・メリット:自動計測で人為的ミスを防げる

    ・デメリット:導入コストがかかる

    方法

    ・UiPath, Power Automate, WinActor などのRPAツールを使い、作業の流れと所要時間を記録する

    例えば、「請求書処理のクリック数・入力時間をRPAで測定し、非効率な動作を可視化」 することが考えられます。

    ポイント

    ・手作業の細かい動作(クリック数や入力回数)までデータ化可能

    ・導入にコストがかかるため、頻繁に実行される業務に適用すると効果的

    (2) 作業ボリュームの測定

    アクティビティごとの業務負荷を数値化する作業になります。

    ① 処理件数の測定

    方法

    ・1日・1週間・1か月あたりの作業件数を記録し、業務負荷を定量化

    「1人の営業担当が1日10件の商談を実施」「受注処理の平均件数が50件/日」などが例に挙げられます。

    ポイント

    ・処理件数が多い業務は、効率化の余地がある可能性が高い

    ・システムから自動取得できる場合は、日次・月次レポートで継続監視

    ② エラー率・手戻り率

    方法

    ・各業務のエラー発生件数を記録し、手戻り率を算出

    例えば、「見積書作成のうち、30%が修正対応が必要」なら、手戻り率30%となります。

    ポイント

    ・手戻りが多い業務は、ルールの明確化や標準化で改善可能

    ・「なぜエラーが発生するのか?」 の原因分析も併せておこなう

    ③ リードタイム測定

    方法

    ・業務プロセス全体のリードタイム(開始から完了までの総時間)を測定する

    「契約書の承認プロセスに平均3日かかる」「社内決裁プロセスに5営業日要する」など、工数を算出します。

    ポイント

    ・業務の停滞要因(ボトルネック)がどこにあるのかを特定しやすい

    ・承認待ちや確認作業にかかる時間を削減することで、全体の生産性を向上可能

    3. 工数や無駄の定量化

    作業の中で発生してしまっている不要な時間やリソースの消費を特定し、見直せる部分が無いかを見つけ出します。

    (1) 無駄(ムダ)の洗い出し

    ① ECRS分析(Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify)にあてはめた見積書作成プロセス(例)

    Eliminate(排除)不要な作業を無くせるか?例:
    上長のダブルチェックを不要に
    Combine(結合)複数の作業をまとめられないか?例:
    見積作成と発注書作成を一元化
    Rearrange(順序変更)作業の順番を最適化できないか?例:
    営業と経理の確認順序を変更
    Simplify(単純化)作業を簡略化できないか?例:
    テンプレートを標準化し入力項目を削減

    ポイント

    ・既存プロセスをそのまま改善するのではなく、抜本的な変更を検討する

    例えば「承認プロセスのステップを減らす」「入力作業を自動化する」などが考えられます。

    ② 7つのムダ分析

    1. 手待ちのムダ(承認待ち時間)
    2. 過剰処理のムダ(不要な手順)
    3. 移動のムダ(情報が複数部門を行き来)
    4. 在庫のムダ(不要なデータや書類の蓄積)
    5. 動作のムダ(非効率な画面操作)
    6. 作りすぎのムダ(過剰な資料作成)
    7. 欠陥のムダ(エラーによる修正作業)
    例:経費精算

    ・「承認待ちのムダ」を削減 → 自動承認ルールを設定

    ・「移動のムダ」を削減 → モバイルアプリで入力可能に

    ポイント:

    ・「なぜこのムダが発生しているのか?」の 根本原因 を分析する

    ・「ムダがなければ、どれだけの時間が削減できるか?」 を定量化する

    4. 期待価値の定量化

    対象プロセス箇所の合理化や改善することで、どのような価値が期待できるかを試算します。

    (1) 収益貢献度の定量化

    売上への影響を数値で示し、成約率・単価・工数削減をKPIにしていきます。

    ■ 売上貢献度

    アクティビティ(営業活動・受注処理など)が売上に与える影響を数値で測る

    ・例1:営業支援ツール導入前後の 成約率の変化(例:20% → 25%)

    ・例2:リードの 商談化率の向上(例:商談化率10% → 15%)

    ・例3:平均受注単価の変化(例:150万円 → 170万円)

    ・例4:営業1人あたりの月間売上高の増減

    • 測定方法:
    1. 導入前後の売上データを収集
    2. 「アクティビティ実施あり」と「実施なし」グループの売上を比較
    3. 営業プロセスごとの影響を細かく分析(商談件数、成約率、平均単価など)
    ポイント:

    ・アクティビティが「どのフェーズで」「どの程度」売上に影響を与えたか分解する

    ・売上貢献が間接的な場合(例:マーケティング施策)もあるため、相関関係を把握する

    ■ コスト削減額

    効率化によって削減できるコスト

    ・例1:業務時間の短縮(例:営業資料作成が1回3時間 → 1時間に短縮)

    ・例2:人的リソース削減(例:月10時間の工数削減 × 100名 = 1,000時間削減)

    ・例3:システム導入による紙・郵送コストの削減

    測定方法:
    1. 現在の業務コストを算出(作業時間 × 時給)
    2. 施策導入後のコストを算出
    3. 差分を計算し、年間のインパクトを見積もる
    ポイント:

    ・時間削減だけでなく、削減した時間をどう活用できるかを明確にする

    ・コスト削減効果が長期にわたるか、単発のものかを区別する

    (2) 顧客満足度への影響

    ■ NPS(ネットプロモータースコア)

    KPI例:顧客満足度の変化

    ・例1:NPSスコア(-10 → +5へ改善)

    ・例2:推奨者(スコア9~10)の割合向上

    測定方法:
    1. 施策導入前後でNPSアンケートを実施
    2. 「推奨者(9-10)」「中立者(7-8)」「批判者(0-6)」の割合を分析
    3. 改善点を特定し、次のアクションに活かす
    ポイント:

    ・スコアだけでなく、顧客の具体的なコメントも分析する

    ・「なぜスコアが向上/低下したか」を明確にし、改善サイクルを回す

    ■ クレーム件数の変化

    KPI例:クレーム数の減少

    ・例1:月間クレーム件数が20件 → 10件へ減少

    ・例2:対応時間が短縮(例:平均対応時間1時間 → 30分)

    測定方法:
    1. クレーム件数をカテゴリ別に記録(品質・納期・対応など)
    2. 施策導入前後で変化を分析
    3. クレーム原因を特定し、対策を実施
    ポイント:

    ・件数だけでなく、クレームの種類別の傾向を分析する

    ・「クレーム件数減少=満足度向上」とは限らないため、他の指標と併用する

    (3) 内部価値(従業員の業務満足度)

    ■ 従業員アンケート(業務負荷・ストレスレベル)

    業務満足度・ストレスレベルの変化

    ・例1:「業務負荷が高い」と感じる割合 60% → 30%へ改善

    ・例2:業務時間の短縮(例:残業時間 40h/月 → 20h/月)

    測定方法:
    1. 施策導入前後で業務満足度アンケートを実施
    2. 「業務負荷・ストレス」「業務効率」「成長実感」などの項目を評価
    3. 結果を部門別・職種別に分析
    ポイント:

    ・具体的な課題と改善点をアンケート結果から抽出する

    ・数値だけでなく、フリーコメントの内容も分析する

    ■ エンゲージメントスコア

    従業員のモチベーション・組織貢献度

    ・例1:エンゲージメントスコア 60 → 75へ改善

    ・例2:離職率の低下(例:5% → 3%)

    測定方法:
    1. エンゲージメント調査ツール(ex. モチベーションクラウド)を活用
    2. 各項目のスコアを記録し、傾向を分析
    3. 改善施策を打ち、継続的にモニタリング
    ポイント:

    ・エンゲージメント向上には「業務効率」「キャリア成長」「職場環境」の3軸で施策を考える

    ・数値が向上した要因を特定し、成功事例を横展開する

    5. プロセス改善施策の実行

    プロセス改善を効果的に進めるためには、KPIデータを基に課題を特定し、具体的な改善施策を計画・実行していくことが必要です。

    ① 課題の特定と改善施策の計画

    方法:

    ・KPIデータや現場のフィードバックをもとに、業務プロセスの課題を分析

    ・改善施策を策定し、効果検証が可能な形で計画を立案(具体的な数値目標を設定)

    例:

    ・営業成約率が低い → 商談プロセスの見直し(トークスクリプトの改善・提案資料の最適化)

    ・顧客満足度が低下 → フォローアップの仕組み強化(定期チェックインの導入・カスタマーサクセスの拡充)

    ・従業員の業務負担が大きい → 業務自動化(ワークフローシステムの導入・RPA活用)

    ② 施策の実行と現場への適用

    方法:

    ・計画した施策を段階的に実行し、影響範囲を見極めながら導入

    ・小規模な試験導入(PoC)を実施し、効果を確認

    ・必要に応じて、現場のオペレーションやマニュアルを更新

    例:

    ・新トークスクリプトを一部の営業チームでテスト

    ・フォローアップ施策を特定の顧客セグメントに限定して導入

    ・RPAを一部業務に適用し、効果を測定

    6. KPIをモニタリングし、改善サイクルを回す(継続的な最適化)

    プロセス改善施策を実行した後は、その効果を測定し、継続的に最適化する必要があります。「測定→分析→施策の調整」を繰り返す仕組みを確立することで、改善を継続しましょう。

    ① KPIのモニタリングとデータ分析

    方法:

    ・KPIをリアルタイムで監視し、定期的に進捗を確認

    ・BIツールやダッシュボードを活用し、データを可視化

    ポイント:

    ・成約率や商談成功率の推移を確認

    ・顧客満足度(NPS、クレーム件数)の変化を分析

    ・従業員アンケートを継続的に実施し、業務負荷や満足度を評価

    ② PDCAサイクルを実施し、継続的に最適化

    方法:
    Plan(計画)モニタリング結果をもとに、新たな改善施策を計画
    Do(実行)施策を試験的に実施
    Check(評価) KPIの変化を確認し、効果を評価
    Act(改善)効果があった施策は本格導入、効果が限定的な場合は別のアプローチを検討

    ポイント:

    ・トークスクリプトの変更後、成約率のデータを分析し、さらなる調整を実施

    ・フォローアップ施策のNPSへの影響を確認し、改善ポイントを特定

    ・自動化ツールの導入後の業務時間削減効果を測定し、対象業務を拡大

    ③ モニタリングと改善を定着させる仕組みづくり

    方法:

    ・定期的なレビュー会議を設定し、KPIの進捗をチェック

    ・各部門がデータを活用できる環境を整備(BIツール導入、レポート共有)

    ・組織全体でPDCAを回す文化を醸成する

    編集長
    谷川 雄亮

    この記事の監修者

    CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。

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