DX推進に有効なプロセス可視化手法『バリューストリームマップ(VSM)』と『ビジネスプロセスマップ』を徹底解説!

DX推進においては、事業活動プロセスを可視化し、全体を俯瞰したうえで問題点や価値創造ポイントを考察することが重要です。 そのために効果的な手法として、バリューストリームマッピング(VSM)とビジネスプロセスマッピング(BPM)があります。 今回はこの2つの手法の違いやアプローチ方法について解説します。
『バリューストリームマップ』と『ビジネスプロセスマップ』の違い
バリューストリームマップとビジネスプロセスマップは、どちらも業務プロセスを可視化するためのツールですが、その目的と可視化する範囲に違いがあります
バリューストリームマップは、製品やサービスが顧客に届くまでの価値の流れを可視化するもので、トヨタ生産方式で生まれました。 一方、ビジネスプロセスマップは、ビジネスモデルを実行し、顧客へ価値提供する流れを可視化するもので、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の文脈で利用されます。
バリューストリームマップは、主に製造業の生産プロセスにおけるモノの流れとリードタイムの改善に主眼が置かれているのに対し、ビジネスプロセスマップは、業種を問わず、顧客、情報、部門の流れを含めたビジネスプロセス全体の最適化に焦点を当てています 。
項目 | バリューストリームマップ | ビジネスプロセスマップ |
---|---|---|
目的 | 価値の流れの可視化、改善 | ビジネスプロセス全体の可視化、最適化 |
焦点 | モノの流れ、リードタイム | 情報、顧客、部門の流れ |
起源 | トヨタ生産方式 | BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング) |
業種 | 主に製造業 | あらゆる業種 |
バリューストリームマップ(VSM)とは
バリューストリームマップ(VSM)とは、製品やサービスが顧客に届くまでの全体的なプロセスを「流れ(ストリーム)」として視覚的に表現する手法です。
材料や情報の流れを示し、各ステップでの時間、コスト、在庫などを分析します。
これにより、無駄な工程やボトルネックを特定し、システムやデータ活用を通じてプロセスの効率化やコスト削減を図ることができます。

バリューストリームマップの作成手順と例
1.プロセスステップの整理
製品やサービスが顧客に届くまでの各ステップを示します。例として、設計→製造→検査→出荷などの順序が図示されます。
2.情報の流れを整理
各プロセスステップの間で、情報がどのように伝達されるかを整理します。通常、矢印で情報の流れや指示がどのように伝わっているかを表します。
3.各ステップにおけるリードタイムや作業時間を明記
各ステップでのリードタイム(待ち時間)や加工時間が明記します。これにより、全体のプロセスにかかる時間が視覚化されます。
4.無駄を特定し、改善ポイントを明確化
各ステップにある在庫量や無駄な作業(非付加価値活動)を整理し、改善ポイントを明らかにしていきます。
バリューストリームマップの課題
バリューストリームマッピングは、Leanの手法として業務プロセスの可視化や無駄の特定に効果的ですが、DX推進において、バリューストリームマップだけではうまく機能しないケースもあります。
DX推進におけるバリューストリームマップの足りない要素
1.顧客視点の不足
DX推進には、顧客とのタッチポイントやデジタルチャネルの最適化を図る必要がありますが、バリューストリームマッピングでは顧客の行動データや体験を含む視点が欠けてしまいがちです。
2.部門横断的な活動推進の不足
例えば、IT部門が新しいソフトウェアを導入し、マーケティングや営業部門がそれを活用して顧客と連携する際、部門ごとのプロセスではなく全体としてどのように協力するかが重要になります。しかし、バリューストリームマッピングだけではその全体像を捉えきれません。
3.定量的なデータ分析ツール
デジタルマーケティングのキャンペーンや顧客の行動パターンを分析してプロセス改善につなげる活動をおこなう場合、バリューストリームマッピングだけでは、これらのデータを統合して評価する機能が弱く、分析として十分とは言えません。
4.デジタルプロセスや自動化の可視化機能
DXではソフトウェアやデジタルプラットフォームの効率化も求められます。バリューストリームマッピングは、物理的な製造プロセスや手作業の流れに焦点を当てているため、これらのデジタル要素を捉えるのが難しいです。
以上のように、DXでは、デジタル技術が絡む複数のプロセスや、システム間のデータフロー、顧客との複雑なインタラクションなどを統合的に把握する必要がありますが、バリューストリームマッピングはそのような複雑性に対応するのが難しいです。
バリューストリームマップの課題を解決する「ビジネスプロセスマップ」
バリューストリームマップの課題を補い、顧客視点で組織横断的にDXを推進するために有効な手法として「ビジネスプロセスマップ」をご紹介します。
ビジネスプロセスマップとは

ビジネスプロセスマップとは、「顧客の行動」と「自社各部門の活動」の両面から事業活動やサービスの流れを1枚の図にまとめたものです。
ビジネスプロセスマップをつくることで、事業活動の流れを俯瞰し、顧客体験をより良くするアイデアをチームで議論することができます。これにより、分断された活動・組織・システム・データをつなぎ、顧客に対して価値を生み出すための取り組むべき施策を企画検討できます。
つまり、ビジネスプロセスマップは、業務改善だけでなく、顧客価値の向上や組織全体の変革に貢献する強力なツールです。
ビジネスプロセスマップの有用性
ビジネスプロセスマップは、顧客視点でのビジネスプロセス全体を可視化することで、以下のような多くの有用性をもたらします。
1.顧客体験を中心にプロセスを可視化できる
ビジネスプロセスマップでは、マップの上半分で顧客の行動、下半分で自社の活動を表現します。そのため顧客のジャーニー(体験の流れ)に寄り添うかたちで自社組織の活動プロセスを結びつけることが可能です。これにより、顧客が求める価値に基づいて業務プロセスを再設計しやすくなります。
顧客視点の強化 | 顧客がどのポイントで不便を感じるか、どのプロセスが満足度を高めるかを明確に把握することで、顧客ニーズに応えるプロセス改善が可能になります。 |
顧客中心のプロセス再設計 | 顧客のニーズや期待に基づき、サービス提供プロセスを再構築することで、より優れた顧客体験を提供できるようになります。これがDXで重視されている「効率化だけでなく価値創造をおこなう」ことにつながります。 |
2.部門横断的なコミュニケーションで部門間連携を促進できる
DXを推進する際には、企業全体の部門や機能をまたいで一貫した変革が必要です。しかし、多くの企業では、各部門が独立して運営され、データやプロセスのサイロ化(孤立)が進んでいることが問題となります。
ビジネスプロセスマップでは、各部門の活動をまとめて1枚の図に描きます。ビジネスプロセスマップをつくる活動を通じて部門間の対話を重ねることで相互理解が生まれ、部門間の垣根を越えて顧客に価値を届ける流れを協議することができます。
組織全体のプロセス把握 | ビジネスプロセスマップではどの部門がどのように連携し、どこにギャップが存在するかを明らかにします。これにより、各部門が自部門の目標に閉じることなく、全体のDX推進に向けて協力できる環境が整います。 |
効率的な情報共有と連携強化 | BPMを通じて、組織内の異なるチーム間で共通の理解を持ち、プロセスの改善が協力して進められるようになります。 |
3.デジタル技術の適用ポイントを明確にできる
DXの目的は、テクノロジーを活用して業務を効率化し、新しい価値を創出することです。しかし、単に技術を導入するだけではなく、適切なプロセスに適用する必要があります。
ビジネスプロセスマップでは、自社活動のなかに部門活動だけではなく、その過程で使われる「システム」と「データの流れ」も描くことができます。これにより、デジタル技術を導入すべきプロセスやフローを、現場の活動に沿ったかたちで明確することができます。
自動化の可能性を特定 | ビジネスプロセスマップを使って、手動で行われている業務やボトルネックを可視化することで、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどを使った自動化が効果的におこなえる部分を特定できます。 |
データ活用の推進 | デジタルツールが活用されるポイントを示し、顧客データや業務データをリアルタイムで活用する方法を構築するのに役立ちます。 |
4.業務効率化だけでなく価値創造にもつなげられる
ビジネスプロセスマッピングは、現状の業務フローを詳細に分析し、どのステップがボトルネックになっているかだけでなく、またどの部分が顧客に対して価値を提供していないか、より顧客提供価値が高められるポテンシャルがあるプロセスを明確にできます。
無駄の排除と効率化 | 無駄なプロセスや非効率な手順が明確化されるため、改善策を講じて業務全体を効率化できます。 |
顧客提供価値の向上 | 価値提供プロセスにおいて、顧客が不満に感じている箇所や、満たされていないニーズを特定することで、落胆体験を減らし、満足体験を増やすための施策を検討できます。 |
プロセスの可視化とBPR/DXを効果的に進めるポイント
ビジネスプロセス改革(BPR)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を効果的に進めるためには、現状のプロセスを可視化することが重要です。可視化を行う際には、以下の点を考慮すると、より成果につながりやすくなります。
(どのフレームワークを使うかを問わず)成果につなげていくために重要な観点
- 目的の明確化: なぜプロセスの可視化を行うのか、その目的を具体的に定義します。 どのような課題を解決し、どのような目標を達成したいのかを明確にすることで、可視化の範囲や深さが決まります。
- 顧客視点: 顧客の行動、ニーズ、期待を中心にプロセスを記述します。 自社の都合だけでなく、顧客の視点に立ってプロセスを捉え直すことで、顧客体験価値の向上や新たな価値創造につながります。
- 関係者の巻き込み: 関連する部門、担当者、ステークホルダーを巻き込み、協働で可視化作業を進めます。 多様な視点を取り入れることで、より客観的で実態に即したプロセスを記述できます。 また、関係者の合意形成を促し、変革への抵抗を減らす効果も期待できます。
- 現状の正確な把握: 現状のプロセスをありのままに記述し、課題や問題点を洗い出します。 先入観にとらわれず、事実ベースで現状を把握することが、本質的な課題発見と有効な対策立案につながります。
- 改革実践へのロードマップ: 可視化だけでなく、その後の改革実践を見据えたロードマップを策定します。 可視化によって得られた知見をどのように活用し、具体的なアクションにつなげていくのかを計画することが重要です。
- 継続的な改善: 可視化したプロセスや策定したロードマップを定期的に見直し、改善を続けます。 ビジネス環境や顧客ニーズの変化に合わせて、プロセスも柔軟に変化させていくことが、持続的な成長につながります。
よくある課題と対策
プロセスの可視化に取り組んだものの、期待した成果が得られなかったというケースも少なくありません。 そこで、よく聞かれる課題とその対策について解説します。
課題
- 可視化自体が目的化し、その後の分析や改善実行につながらない。結果として、多くのプロセスマップが作成されただけで、活用されずに終わってしまう。
- 各部署の業務を部分的に切り出して可視化するに留まり、プロセス全体の最適化に繋がらない。
- 経営層の指示などでプロジェクトが開始されたものの、目的理解やチームビルディングが不十分なまま進めてしまったため、「総論賛成・各論反対」の状態に陥り、プロジェクトが停滞してしまう。
対策
- なぜプロセスの可視化に取り組むのか(BPRやDXになぜ取り組むのか)を明確に言語化し、関係者間で共通認識を持つための活動を行う。プロジェクトチーム内で目的意識を共有し、協力体制を構築することが重要である。
- プロセスの可視化を行った後に、どのように改革実践につなげていくのか、具体的なロードマップを策定する。可視化だけでなく、具体的なアクションプランを示すことで、関係者のモチベーションを維持し、プロジェクトを推進する。
- 本格的なプロジェクト開始前に、準備段階として少人数のチームを立ち上げ、目的や進め方について合意形成を図る。関係部署のキーとなるメンバーを巻き込む前に、プロジェクトの土台を固めることが重要である。
ビジネスプロセスマップを用いてBPR/DX推進を進めたい方へのおすすめ講座
このようにビジネスプロセスマップをつくることで、「顧客の行動」と「自社の活動(システムやデータを含む)」の両面から事業活動の流れをまとめることで、DXにおける「業務効率化」と「価値創造」の両面からDXのアプローチ策を練ることに効果的です。
当サイトを運営している株式会社あやとりでは、さまざまな業種の企業でビジネスプロセスマップの作成を支援してきた専門家が、オンライン研修、ワークショップのファシリテーション、プロジェクトの伴走支援を通じて、御社のビジネスプロセスの可視化や課題整理をサポートします。御社内へのノウハウ蓄積やマネジメントスキル定着を重視した進め方が特長です。
ビジネスプロセスマップ作成講座(オンライン/公開講座)
公開講座で作成手順とファシリテーションのコツを学ぶ
- 66,000円(税込/人)
- オンラインで開催する公開講座に参加
- プロセスマップの作り方や活用法を学びたい担当者におすすめ
ビジネスプロセスマップ作成社内導入ワークショップ(対面/個別企業研修)
主要メンバーで導入ワークショップをおこない計画を立てる
- 330,000円~(税込/回)
- 御社に訪問し、主要関係者で対面ワークショップを実施
- プロセスマップ作成をトライアル体験して、計画しているプロジェクトの進め方や取り入れ方を考えたい場合におすすめ
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- 編集長
- 谷川 雄亮
この記事の監修者
CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。
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