DX推進に有効なプロセス可視化手法『バリューストリームマッピング(VSM)』と『ビジネスプロセスマッピング(ビジプロ)』を徹底解説!

 2024.10.15 2024.10.16
編集長
谷川 雄亮
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DX推進においては、事業活動プロセスを可視化し、全体を俯瞰したうえで問題点や価値創造ポイントを考察することが重要です。 そのために効果的な手法として、バリューストリームマッピング(VSM)ビジネスプロセスマッピング(BPM)があります。 今回はこの2つの手法の違いやアプローチ方法について解説します。

目次

    まずはここから確認!デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

    DXレポートではDXを以下の通り定義しています。

    企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(引用:経済産業省『DXレポート』

    この定義を読み解くと、DXを推進するうえで忘れてはならないことが見えてきます。それは、データとデジタル技術を活用することは、あくまでも手段であって目的ではないということです。

    DXの起点は「顧客や社会のニーズ(それがどのように変化してきているか)」であり、そのニーズに応えて「競争優位性を確立するため」に、「自社のあらゆることが変革対象」となり、そのための手段としてデータやシステムを活用するというスタンスを徹底することが求められます。

    DXの現場で起きている問題

    しかし、DXの現場では、「システムやデータ活用」をすることが目的化してしまっているプロジェクトが散見されます。

    このような状態に陥ることを防ぎ、効果的にDXを推進するための道標(みちしるべ)となるのが「事業活動プロセスを可視化した全体俯瞰図」です。

    そこで、代表的なプロセス可視化手法であるバリューストリームマッピング(VSM)とビジネスプロセスマッピング(ビジプロ)の2つについてご紹介します。

    バリューストリームマッピング(VSM)とは

    バリューストリームマッピング(VSM)とは、製品やサービスが顧客に届くまでの全体的なプロセスを「流れ(ストリーム)」として視覚的に表現する手法です。

    材料や情報の流れを示し、各ステップでの時間、コスト、在庫などを分析します。
    これにより、無駄な工程やボトルネックを特定し、システムやデータ活用を通じてプロセスの効率化やコスト削減を図ることができます。

    バリューストリームマップのサンプル

    バリューストリームマッピングの作成手順と例

    1.プロセスステップの整理

    製品やサービスが顧客に届くまでの各ステップを示します。例として、設計→製造→検査→出荷などの順序が図示されます。

    2.情報の流れを整理

    各プロセスステップの間で、情報がどのように伝達されるかを整理します。通常、矢印で情報の流れや指示がどのように伝わっているかを表します。

    3.各ステップにおけるリードタイムや作業時間を明記

    各ステップでのリードタイム(待ち時間)や加工時間が明記します。これにより、全体のプロセスにかかる時間が視覚化されます。

    4.無駄を特定し、改善ポイントを明確化

    各ステップにある在庫量や無駄な作業(非付加価値活動)を整理し、改善ポイントを明らかにしていきます。

    バリューストリームマッピングをDX推進に活用するメリット

    バリューストリームマッピングは、製造業やサービス業の業務改善に有効なフレームワークですが、DXを推進するうえでも以下のようなメリットがあります。

    1.業務プロセスの全体像の可視化

    この可視化によって、どの工程がどのように価値を生み出しているのか、またどこに無駄が発生しているのかの全体像を把握できます。
    DXでは、作業プロセスのデジタル化や自動化が求められますが、既存の業務フローを正確に理解することが改革の第一歩となります。

    2.非効率なプロセスや無駄を特定

    バリューストリームマッピングは、リードタイムや作業時間、待ち時間などのデータを通じて、どの部分がボトルネックになっているかを明確にします。これにより、無駄な手作業やプロセスの重複、不要な待機時間など、DXによって改善可能な領域を特定し、プロセスの効率化に向けた具体的な改善ポイントを見出すことができます。

    3.プロセス全体の最適化を支援

    DXの目的は、単にデジタル技術を導入するだけではなく、全体の業務プロセスを最適化し、価値を最大化することです。バリューストリームマッピングを通じてプロセス全体のフローが把握できると、どの部分にデジタル技術を導入すべきかが見えてきます。自動化の優先領域や、デジタルツールによって迅速化できる部分を特定することができるため、全体的な最適化が進みます。

    4.部門横断的な連携を促進

    DXは通常、組織全体に関わる大規模な変革をともないます。バリューストリームマッピングを使用することで、異なる部門間のプロセスのつながりを視覚的に示すことができ、連携が促進されます。これにより、業務フローの重複や不一致が解消され、デジタル技術を効果的に統合できる環境が整います。

    5.顧客価値に焦点を当てたプロセス改革

    DXでは、顧客体験を向上させることが最終的な目標とされている場合が多くあります。バリューストリームマッピングは、顧客に対する価値がどの段階でどのように生み出されるかを明確にするため、顧客にとって真に価値のあるプロセスを特定できます。結果、DXを通じて顧客体験の向上に直結する業務改善が可能となります。

    6.変革の進捗管理

    バリューストリームマッピングは、DX推進における進捗を測定し、変革の効果を可視化するツールとしても有効です。現在の状態(現状マップ)と理想の状態(将来マップ)を比較しながら、どの程度改善が進んでいるかを評価することができます。これにより、DXの進行状況を確認しながら、継続的な改善活動の調整が可能です。

    以上のように、バリューストリームマッピングは、無駄を排除して効率化を図るための基盤を提供し、事業視点でDXを推進するための重要なツールです。

    バリューストリームマッピングの課題

    バリューストリームマッピングは、Leanの手法として業務プロセスの可視化や無駄の特定に効果的ですが、DX推進において、バリューストリームマッピングだけではうまく機能しないケースもあります。

    DX推進におけるバリューストリームマッピングの課題や足りない要素を考えてみましょう。

    DX推進におけるバリューストリームマッピングの足りない要素

    1.顧客視点の不足

    DX推進には、顧客とのタッチポイントやデジタルチャネルの最適化を図る必要がありますが、バリューストリームマッピングでは顧客の行動データや体験を含む視点が欠けてしまいがちです。

    2.部門横断的な活動推進の不足

    例えば、IT部門が新しいソフトウェアを導入し、マーケティングや営業部門がそれを活用して顧客と連携する際、部門ごとのプロセスではなく全体としてどのように協力するかが重要になります。しかし、バリューストリームマッピングだけではその全体像を捉えきれません。

    3.定量的なデータ分析ツール

    デジタルマーケティングのキャンペーンや顧客の行動パターンを分析してプロセス改善につなげる活動をおこなう場合、バリューストリームマッピングだけでは、これらのデータを統合して評価する機能が弱く、分析として十分とは言えません。

    4.デジタルプロセスや自動化の可視化機能

    DXではソフトウェアやデジタルプラットフォームの効率化も求められます。バリューストリームマッピングは、物理的な製造プロセスや手作業の流れに焦点を当てているため、これらのデジタル要素を捉えるのが難しいです。

    以上のように、DXでは、デジタル技術が絡む複数のプロセスや、システム間のデータフロー、顧客との複雑なインタラクションなどを統合的に把握する必要がありますが、バリューストリームマッピングはそのような複雑性に対応するのが難しいでしょう。

    バリューストリームマッピングの課題を解決する「ビジネスプロセスマッピング」

    バリューストリームマッピングの課題を補い、顧客視点で組織横断的にDXを推進するために有効な手法として「ビジネスプロセスマッピング」をご紹介します。

    ビジネスプロセスマップとは

    ビジネスプロセスマップとは、「顧客の行動シナリオ」と「自社の各部門業務」の両面から事業活動やサービスの流れを1枚の図にまとめたものです。
    ビジネスプロセスマップをつくることで、事業活動の流れを俯瞰し、顧客体験をより良くするアイデアをチームで議論することができます。これにより、分断された活動・組織・システム・データをつなぎ、顧客に対して価値を生み出すための取り組むべき施策を企画検討できます。

    ビジネスプロセスマップが顧客起点でのDX推進に有効な理由

    1.顧客体験を中心にプロセスを可視化できる

    ビジネスプロセスマップでは、マップの上半分で顧客の行動、下半分で自社の活動を表現します。そのため顧客のジャーニー(体験の流れ)に寄り添うかたちで自社組織の活動プロセスを結びつけることが可能です。これにより、顧客が求める価値に基づいて業務プロセスを再設計しやすくなります。

    顧客視点の強化顧客がどのポイントで不便を感じるか、どのプロセスが満足度を高めるかを明確に把握することで、顧客ニーズに応えるプロセス改善が可能になります。
    顧客中心のプロセス再設計顧客のニーズや期待に基づき、サービス提供プロセスを再構築することで、より優れた顧客体験を提供できるようになります。これがDXで重視されている「効率化だけでなく価値創造をおこなう」ことにつながります。

    2.部門横断的なコミュニケーションで部門間連携を促進できる

    DXを推進する際には、企業全体の部門や機能をまたいで一貫した変革が必要です。しかし、多くの企業では、各部門が独立して運営され、データやプロセスのサイロ化(孤立)が進んでいることが問題となります。

    ビジネスプロセスマップでは、各部門の活動をまとめて1枚の図に描きます。ビジネスプロセスマップをつくる活動を通じて部門間の対話を重ねることで相互理解が生まれ、部門間の垣根を越えて顧客に価値を届ける流れを協議することができます。

    組織全体のプロセス把握ビジネスプロセスマップではどの部門がどのように連携し、どこにギャップが存在するかを明らかにします。これにより、各部門が自部門の目標に閉じることなく、全体のDX推進に向けて協力できる環境が整います。
    効率的な情報共有と連携強化BPMを通じて、組織内の異なるチーム間で共通の理解を持ち、プロセスの改善が協力して進められるようになります。

    3.デジタル技術の適用ポイントを明確にできる

    DXの目的は、テクノロジーを活用して業務を効率化し、新しい価値を創出することです。しかし、単に技術を導入するだけではなく、適切なプロセスに適用する必要があります。

    ビジネスプロセスマップでは、自社活動のなかに部門活動だけではなく、その過程で使われる「システム」と「データの流れ」も描くことができます。これにより、デジタル技術を導入すべきプロセスやフローを、現場の活動に沿ったかたちで明確することができます。

    自動化の可能性を特定ビジネスプロセスマップを使って、手動で行われている業務やボトルネックを可視化することで、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどを使った自動化が効果的におこなえる部分を特定できます。
    データ活用の推進デジタルツールが活用されるポイントを示し、顧客データや業務データをリアルタイムで活用する方法を構築するのに役立ちます。

    4.業務効率化だけでなく価値創造にもつなげられる

    ビジネスプロセスマッピングは、現状の業務フローを詳細に分析し、どのステップがボトルネックになっているかだけでなく、またどの部分が顧客に対して価値を提供していないか、より顧客提供価値が高められるポテンシャルがあるプロセスを明確にできます。

    無駄の排除と効率化無駄なプロセスや非効率な手順が明確化されるため、改善策を講じて業務全体を効率化できます。
    顧客提供価値の向上価値提供プロセスにおいて、顧客が不満に感じている箇所や、満たされていないニーズを特定することで、落胆体験を減らし、満足体験を増やすための施策を検討できます。

    ビジネスプロセスマッピングの実践ステップ

    このようにビジネスプロセスマップをつくることで、「顧客の行動」と「自社の活動(システムやデータを含む)」の両面から事業活動の流れをまとめることで、DXにおける「業務効率化」と「価値創造」の両面からDXのアプローチ策を練ることに効果的です。

    ビジネスプロセスマップ作成手順と実際の作成の様子

    作成手順に沿って、ビジネスプロセスマップを模造紙を使って作成します。アナログな方法も取り入れることで、組織間の「対話」を促進することにもつながります。(引用:株式会社あやとり『ビジネスプロセスマップ作成講座』教材)

    ビジネスプロセスマップ作成についての詳細はこちらのページをご覧ください。

    バリューストリームマッピングとビジネスプロセスマッピングの比較

    ここまでで、DX推進に効果的な手法としてバリューストリームマッピング(VSM)とビジネスプロセスマッピング(ビジプロ)の2種類のフレームワークをご紹介しました。

    最後に、2つのフレームワークの違いをまとめます。

    目的

    VSM製品やサービスの「価値の流れ」を可視化し、無駄や非効率を特定し、プロセスの最適化を目指す。
    ビジプロビジネス全体の「業務フロー」を詳細に可視化し、プロセス全体の理解と効率化、改善を目的とする。

    対象

    VSM主に製造業やサプライチェーンのような、製品が顧客に届くまでのフローに焦点を当てる。
    ビジプロ業務プロセス全般に対応し製造工程だけでなく販促や営業工程などもカバー範囲とするため、業種を問わず多様なビジネス環境に適用できる。

    観点

    VSM各ステップの無駄や時間に注目する。
    ビジプロ生産性の改善だけでなく、顧客とのタッチポイントを考慮した価値創造や部門間連携を深く掘り下げる。

    利点

    VSMシンプルで直感的なプロセス改善、特に製造や物流の効率向上に効果的。
    ビジプロ複雑な業務やITシステム、部門間のプロセス改善や最適化に適している。

    アプローチ

    VSMリーン手法の一環として、無駄の削減に重点を置く。
    ビジプロ業務全体を体系的に整理し、ITを活用した業務の自動化や顧客への価値提供プロセスの再設計を推進する。

    バリューストリームマッピングとビジネスプロセスマッピングを活用してDXを加速する

    バリューストリームマッピングやビジネスプロセスマッピングを活用することで、企業がDXを効果的に進めることができます。

    2つのフレームワークにはそれぞれ特徴があります。いずれにしても「自社都合ではなく顧客起点」で事業活動の流れを見直すことで、「生産性を改善する」ことだけでなく「顧客提供価値を創造する」ことが重要です。

    ITシステムを導入することを目的化するのではなく、上記を実現する手段としてシステムやデータを活用するために、ご紹介したような可視化手法をぜひ試してみてください。

    編集長
    谷川 雄亮

    この記事の監修者

    CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。

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