企業のWeb運営体制7類型とチームづくりを成功させる5つの秘訣~DX時代におけるWebサイト運営チームのあり方~

 2023.12.05 2023.12.20
編集長
谷川 雄亮
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「異動や交代が激しく十分なWebサイト運営スキルが社内に定着しない」「Webを活用してやりたいことが部門間で対立してしまって、Web担当者の人たちが板挟みになっている」…
Web運営チームづくりにあたり、このようなお悩みが起きていませんか?
今回は、さまざまな状況で運営されているWeb運営のチーム体制を当社が目にすることの多かった7つの形でご紹介します。皆様自身の会社がどの類型に当てはまるのかをイメージしていただきながら、一歩先の段階のWeb運営チームを作っていくヒントとしていただければと思います。

目次

    Web運営チームの7類型

    まずは、さまざまなチーム体制についてみていきます。
    ※それぞれの運営体制をわかりやすくするために当社独自に「〇〇型」と名付けた形でご紹介しています。

    1.タコつぼ型

    総務部門や情報システム部門でWebを運営されている時によく見かけるケースです。
    Webの領域に詳しい人が勝手にページ制作をしたり、特定の人に一任してしまったりして、究極の独人化状態になってしまっていることを「タコつぼ型」と定義しています。

    最近では「タコつぼ型」は減りつつあるのですが、Webサイトが日本の企業で使われ始めた頃はほとんどの企業が「タコつぼ型」のWebサイト運営形態を取っていました。
    Webサイトが生まれた頃は、そもそも会社にWebサイトの専門の知識を持った人がおらず、会社としても誰が担当すべきか決めかねた結果、総務に一任されるということは頻繁に起こっていました。

    2.完全縦割り型

    タコつぼ型から、徐々にWebサイトを活用していこうという流れが生まれたときに、次の類型「完全縦割り型」が生まれました。
    事業部それぞれが完全に独立してそれぞれのサイトを作る、というものです。

    今から10年前くらいまでは「完全縦割り型」が多く、Webサイトのメインメニューのボタンが「〜事業部へ」となっていて、1つのサイトにもかかわらず、事業部ごとに完全に分断されて運営されているということがよくありました。

    部署間でコミュニケーションが取られておらず、各事業部の目的を達成するためだけに好き勝手にWebサイトを作成し運営する方法になります。

    このような運営方法では「個別最適になりすぎてしまった結果、顧客視点が抜け落ちていってしまう」ということがよくあります。
    例えば、あるお客様は A事業 B事業C事業というように、社内のいろいろな事業部と関わっているにもかかわらず、縦割りサイト弊害により、たらいまわしにされるというような事態です。
    個人に任せっきりだった「タコツボ型」に比べて見ると、事業部単位でアイデアが生まれてきている「完全縦割り型」は一歩進んでいる状態といえますが、縦割りのWebサイトでは情報を整理して発信できていないのです。

    3.社長声かけ型

    社長自らトップとしてリーダーシップを発揮しWeb活用の指揮を執ってくれるような状態です。

    大企業だと具体的にプロジェクト担当として社長が入ってくる可能性は低いのですが、中小企業ではよく聞く話です。
    社長が代替わりして若手社長になったときには「社長声かけ方」になるケース見受けられます。

    これはトップがリーダーシップを発揮し、会社全体としてのWeb活用やIT活用を引っ張るという意味では、一丸になっているといえるでしょう。

    しかし、社長のリーダーシップに左右されてしまうので、その人の性格や周りの巻き込み方が影響してしまいます。

    4.広報孤立型

    Webサイトの活用方法として、情報発信に重きを置くためにも、総務ではなく広報部の方々が他の紙媒体とセットで運営を請け負うケースです。

    この「広報孤立型」でよく起こることとしては

    • 会社全体の広報としてWebサイトで情報発信をしているが、他部署の興味関心は薄い
    • 新しい企画を考えるために他部署に協力を依頼しても、忙しさを理由に断られ何もできない

    などがあります。

    Webサイトを使って全社的に広報活動を進めているという意味では、これまで紹介したものより一段階進んでいるのですが、具体的な事業成果に対してどのようにWebサイトを活用するかという定義が社内で定まっていない状態になってしまっています。

    このような状態で運営が進んでいくと、Webサイト上で定める目標が「PV数(ページビュー数)」「アクセス数」などになってしまいがちです。
    アクセス数が上がったことで、具体的にどれだけ売り上げに寄与したのか、顧客サポート部門の業務生産性向上や顧客満足度向上にはどのように貢献しているかなどというころまでは見えにくい状態です。

    「今月は2万PV獲得できました」と広報が他部署に宣言しても、「それが何にどうつながったかがわからない」と言われて終わってしまうことも多い型になります。

    5.営業支援型

    Webサイトを活用して営業業務の一部を担ったり、営業員をWebに置き換えて営業活動をしたりする方法です。

    実は見込み顧客の7割以上はWebサイト上で一次選定を終えてしまっているという調査データもあるほど、ウェブサイトにおける営業の役割は大きくなっています。

    このような活用方法になってくると、具体的にWebを活用してどのような成果を上げたいのかというところがはっきりしますし、営業成果に対して測定や改善活動を回しやすくなってきます。

    しかし、まだこの状態では、全社的な貢献ということには進んでいません。

    全社的な貢献を求めてWebを活用しようとすると、単純に見込み顧客を開拓するだけではないはずです。
    例えば、既存顧客の満足度向上活動も必要かもしれません。
    あるいは人事採用面で良い人材を集め会社としての成長を図る、さまざまな部門の業務プロセスと照らし合わせてWebを活用することで各部門の業務効率化を図るなどが考えられるのではないでしょうか。

    「営業支援型」の段階では、あくまでも営業的な数字の成果を追っている時点で全社的な改善改革までには届いていないといえるでしょう。

    先進的な企業では、さらに一歩進んだ活用を考えています。

    6.組織横断型

    いろいろな目的の達成手段としてWebサイト活用の取り組みを推進する際、特定の部署や普段サイト運営を担当している方だけでそのプロジェクトを進めるのではなく、必要があれば他の業務をしている部署の方々にも一時的に集まってもらい、プロジェクトチーム編成する型です。

    この方法により、普段は縦割りでの活動だったものが横からも見ることができるようになります。
    また、Webサイトの活用プロセスを通じて、自分たちの部署の業務はどうあるべきか、という振り返りにもつながります。
    Webサイトの活用がこの段階にまでなると、組織がより横断的に仕事ができる体制に変化することも望めます。

    しかし、各事業部の担当として一時的に集まっている状態により、どうしても気を付けなければならない部分もあります。事業部ごとにもその年に遂行すべきミッションや成果が数字としてあるはずなので、「目先の目標を達成するためにWebをどう活用できるのか」というところに話題がどちらとしてもよってしまうことが多いです。
    本来考えたい3年先5年先を見据えて、今Webサイトをどのように活用すべきか、というところに対しては、具体的なアクションに落とし込みにくいという課題があるので気を付けましょう。

    7.経営企画リーダーシップ型

    進め方的には「組織横断型」と同じなのですが、主導権を握る主担当、責任者を経営企画部門で担っていくパターンです。

    経営企画部門は他の部署と少し違うところとして、事業計画や中期経営計画にも関与するような部門です。
    そのため、経営企画部門主導で部門間に横串をさしてWeb活用を推進することができれば、目先の課題解決だけでなく、長期的に会社としてどのような未来を目指していくのかという「価値創造」にあたる取り組みをすることができます。

    これにより、Webを活用して新たなイノベーションや新しい世界観を生み出すことも期待できるので、最終的な発展形として目指すべき型といえます。

    コロナ禍以前から変化を続けるWebの役割

    誰しもが体感しているように、コロナ禍以前と現在では、ビジネスのありかたにも変化が生まれました。
    Webサイトの活用についても同様で、展示会をオンラインに置き換えてみたり、対面営業ではなくオンライン商談やオンラインセミナーをしてみたり、さまざまな施策をおこなってきたのではないでしょうか。

    しかしWebサイトの活用法においては、コロナ禍での活用の変化がたまたま象徴的だっただけで、実はこれまでもずっと変化してきているのです。

    これは企業内におけるWebサイトの役割の変化を表しています。

    日本企業におけるWebサイト活用が始まった黎明期は1995年頃と言われており、当時の活用法としては、ただの事業紹介、いわゆる紙の会社案内をWebサイトに掲載したような状態で運営されていました。

    この状態だと、7類型のなかの「タコつぼ型」として総務部が運用しているパターンも多く見られました。

    2000年代に入るとWebサイトを「広報や販促の観点で活用しよう」「会社のPRとして活用しよう」などのように目的が広がり、広報部やマーケティング部が運用を担うようになってきました。

    さらに2010年頃には「具体的な案件発掘のためにWebサイトを活用していこう」「リード発掘しよう、売り上げを獲得しよう」という、営業推進部や営業企画部が、対面営業の後方支援としてWebサイトを活用するパターンも増えました。

    その変化を経て、現在はWebやIT技術を使って事業そのものを変えていこう、組織全体のプロセスを変えていこうというところまでに発展してきています。

    このようにWebサイト活用は、総務部主体の単純な会社案内から、経営主体の組織変革や事業変革にまで影響を与えるほど重要な媒体に成長しました。

    この変化からみても、運営チームの在り方において、5年先10年先を見据えたとき、どのような体制が自社にとっていいのかを考える必要があると思いませんか?

    なぜ、経営に携わる部門(経営企画部門)がWebサイト運営を担うといいのか

    経営企画部の業務には、例えば「戦略策定や経営層のサポート」「組織全体の活性化」「経営全体の仕組み自体の刷新」などがあります。

    ここ数年このなかに「組織のデジタルトランスフォーメーション、デジタルの技術を使って変革をする」、「新しいビジネスモデルを作っていく」なども含まれ、経営企画部門が考えていくべき領域の一つとなっているようです。

    アナログでは取りにくいものでも、デジタルの活用によりデータを蓄積させたり、イノベーションを生み出したりと、新しい価値創造していくことにつながります。
    そのために経営企画部は、従来業務とこの新しいデジタルトランスフォーメーションのための業務をうまくつなげていく必要が出てきました。

    デジタルトランスフォーメーションは、経済産業省のDXレポート

    「企業がビジネス環境の激しい変化に対応しデータとデジタルの技術を活用して顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものは組織プロセス文化風土を変革して競争上の優位性を欠く確立すること」

    と定義されています。

    これを私たちは、「環境変化に適応して常に変わり続けられる組織になっていくこと」とも言えるのではないかと考えています。
    そのように考えてみると、デジタルトランスフォーメーションを推進していく第一歩としてWebをどう活用できるのかということも、5年先10年先を見据える必要があり、そのために必要なチーム編成も鍵になるといえるでしょう。

    成功するWebサイト運営チームづくりの5つの秘訣

    1.Whyからはじめよ!

    何を目指しているのか、どのような状態を生みたいのかについて整理されているかどうかはとても重要なポイントです。

    例えば「リアルの展示会をオンライン展示会にしたい」「対面営業からオンライン商談にきりかえたい」という課題は、単純に置き換えるだけではうまくいきません。 その先ではどのようにお客さまとの関係を築いていきたいのか、何のためにその方法を選ぶのかなどを考えていかないと、手段が目的化してしまうということにもつながりかねません。

    2.失敗から学ぶ

    Webサイト運営ではたくさんの失敗経験をするでしょう。
    実はこの失敗経験ほど価値があるものなのです。
    しかし残念なことに、そのノウハウがなかなか共有されないまま、隠されてしまっていることよくあることです。

    なぜ失敗したのか、次に成功させるためにはどうしたらいいかということは、とても重要な会社としての財産になります。

    また、Webサイト運営の技術は目まぐるしく変化し、常に新しい取り組みをしなければいけません。前向きに失敗が共有できるようなWeb運営チーム作りは重要です。

    3.社内を巻き込む

    7類型で見ていていただいた通り、Web担当部門が孤立している、特定の誰かに集約されて他の人が関わっていないというケースも多いと思います。

    しかし、さまざまな事業部門やIT部門を巻き込み組織横断的に進めていくことが重要だという事実に、ここまでこのコラムを読んでいただいた方であれば気づいていただけると思います。

    4.選択と集中

    価値創造に貢献しない活動は廃棄をしていくことを「選択的廃棄」ということもあります。

    新しいことをやろうとしたとき、現状にそれを取り入れると仕事が増えるだけになってしまいます。仕事だけ増え続けて忙しさに拍車がかかり、結局どれも中途半端になってしまうことにもなりかねません。

    WebサイトやITに関する投資についての調査データ では、日本の企業の8割はランザビジネス領域(今までの業務やシステムを維持担保するためのところ)に8倍の資源(人材や資金)を投入してしまっているそうです。

    (出所)「DXレポート」 2.2.5 既存システムの運用保守に割かれてしまう資金・人材(P.12)平成30年9月7日
    https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf

    これにより、バリューアップ(新しい価値創造するための取り組み)には全体の2割しか資源を投入できない状態だそうです。

    古く使いにくいシステムのメンテナンスにお金も時間もうばわれてしまい、いつまでたっても仕事が楽にならないという経験をしたかたもいるかもしれません。

    そうならないためにも、バリューアップにつながらないような活動やシステム、仕組みは廃棄し、体を身軽にして新しい取り組みのために資源を使うことを検討する判断も必要になります。

    ビジネスを回していくために日々やるべきことは滞りなくおこないながらも、そこにかけるエネルギーをできるだけ節約して次の新しいものを生み出す方向にシフトさせることが企業の成長につながるのです。

    5.企業風土を変える

    Webサイト活用というと、3ヶ月先、半年先という短期的な施策ばかりに目が行きがちですが、 5年先10年先の自分たちの会社事業がどうあるべきかという、未来から逆算して考えてみてください。
    場合によってはWebサイトのリニューアルや改修作業で小手先の改善をおこなうよりさきに、組織風土や関係性を変えることに取り組む必要があるかもしれません。

    カリスマ的な経営者が新しいビジネスモデルを生み出す場合もありますが、多くの場合はその会社にいるリーダーたちがいろいろ話し合って、意見を出し合いながら新しい付加価値を生み出しているはずです。そのような組織風土を作らなければ、いくらシステムに手を加えても新しい付加価値は生み出せません。

    まとめ

    今回ご紹介した7類型、いきなり「経営企画リーダーシップ型」とはならなくても、まずは御社にあったところからスタートしてみてください。
    時代の変化に即したWebの活用をめざすのであれば、「営業支援型」「組織横断型」そして「経営企画リーダーシップ型」を目標にしていただきたいと私たちは考えています。

    デジタルマーケティングに取り組む目的と成果を改めて考え、そのために必要なチームになっているかをぜひ見直してみてください。

    編集長
    谷川 雄亮

    この記事の監修者

    CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。

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