ステークホルダーマップとは?作り方のコツと活用例【テンプレート付!】
ステークホルダーマップとは、事業やプロジェクトを取り巻く人や組織とその関係性を図式化したものです。事業活動に影響を与えている利害関係者をマップ上に整理し、影響度や相関関係を分析します。サービスデザインやプロジェクトマネジメントの改善に役立てることができます。
1.ステークホルダーマップとは?
ステークホルダーとは
ステークホルダーとは、企業や組織が事業活動をおこなううえで、直接または間接的に影響を受ける利害関係者のことをいいます。具体的には、消費者(製品やサービスの利用者)、協力会社(販売代理店など)、従業員、仕入れ先、株主、債権者、地域社会、行政機関などがあげられます。
ステークホルダーマップとは
ステークホルダーマップとは、ステークホルダーの関係性を図式化したものです。
事業活動に影響を与えるといっても、お互いの利害が一致しているとは限りません。そこで、事業活動に影響を与えている利害関係者をマップ上に整理し、影響度や相関関係を分析することで、サービスデザインやプロジェクトマネジメントの改善に役立てることができます。
2.なぜステークホルダーマップをつくることが大切なのか
事業を取り巻く環境の不確実性や複雑さが高まり、影響を与える関係者が肥大化しています。
関係者をうまく巻き込みながらプロジェクト推進をしていかなければなりません。
ステークホルダーマップをつくることで、そのような関係者とのつながりを知り、関係性を強化するためのアイデアが得られるメリットがあります。
ステークホルダーマップをつくるメリット
- プロジェクトに影響を与えるステークホルダーを特定することができる
- 重要なステークホルダーを早い段階でプロジェクトに関与させ、協力を得ることでプロジェクト推進に勢いをつけられる
- 関係者間のコミュニケーション方法を改善することで共通理解を深め、協力関係を高められる
- ステークホルダーが懸念していることや要望を予測し、ステークホルダーに向けて効果的にメッセージを発信することで、前向きな意思決定につなげられる
マップに「可視化すること」ではなく、マップを使って「対話すること」が重要
マップをつくってステークホルダーとの関係性を可視化することも大事ですが、それ自体は何の改善にもつながりません。作成したマップを使って、ステークホルダーとの関係性を高めるために何ができるかを考える「対話の場」をプロジェクトチームでもつことに意義があります。
自分たちの活動にはどのような人や組織が関与し、影響を与えていますか?個別最適ではなく全体最適としてより良い関係性を築くためには、どのようにそれぞれの関係性を見直すとよいでしょうか?
そのようなことをプロジェクトメンバーとともにマップを見ながらディスカッションしましょう。
3.ステークホルダーを可視化してビジネス改善策を学べる講座
ステークホルダーマップは、ビジネスに影響を与える利害関係者を洗い出して相関図にしたものです。時系列ではなく関係性の深さや関わり合いの有無のみを表現します。
ステークホルダーマップを作ったあとに、事業の流れを俯瞰する「ビジネスプロセスマップ」作成に取り組むことで、協力者との連携を深めながら顧客との関わり合い方をより良くする方法を具体的に議論することができるようになります。
4.ステークホルダーマップ3選(フレーム構成例と活用法)
ステークホルダーマップにはさまざまな書き方があります。つくる目的や用途に応じてフレームを使い分けます。ここでは代表的な3種類のフレーム構成例をご紹介します。
1)事業構造(ビジネスモデル)を整理する鳥観図としてのステークホルダーマップ
これは事業構造を俯瞰整理したステークホルダーマップです。製品やサービスを生み出して顧客に提供するにあたって、関係者の相関関係や価値移転の流れを整理します。自社のビジネスモデルの特長をふまえて、サービスプロセスの強化策を探ることに役立てられます。
活用例:自社ビジネスモデルの強みを理解し、ウェブ戦略にいかす
ウェブ戦略を立てるためには、自社事業のビジネスモデルや事業戦略、販売体制を深く理解しなければなりません。このようにステークホルダーマップで自社の事業構造を俯瞰することで、バリューチェーンの特長や強みを理解することができます。
2)顧客を中心としてコミュニケーション接点を整理したステークホルダーマップ
これは顧客接点を整理したステークホルダーマップです。顧客中心で自社の事業をとらえ、顧客体験を高めるためにはステークホルダーとのかかわりかたをどうすべきかを考える際に役立ちます。
1)のステークホルダーマップと作り方が異なる点は、顧客を中心に配置し、顧客との関係性が深い人や組織をより中心近いところに配置するところです。上記サンプルでは顧客を中心として、同心円で3つの境界に分かれています。
フロントステージ (直接) | 顧客と場を共有した状態で接点をもつことがあるステークホルダー。 「○○担当の○○さん」のように具体的に接する人物を顧客認識されている。 |
フロントステージ (間接) | オンラインなどで顧客と間接的に接点をもつことがあるステークホルダー。 「具体的にどなたかはわからないがコールセンター窓口のかた」のように、顧客には存在は認識されているが、具体的に接する人物までは把握されていない場合が多い。 |
バックステージ | 裏方としてフロントステージに立つステークホルダーを支える関係者。 顧客には存在自体を認識されていない、もしくは存在は認識されているが顧客との接点は一切もたない存在。 |
※上記は分け方の一例です。その他にも顧客を中心に、内側の円を「内部ステークホルダー」、外側の円を「外部ステークホルダー」といった分け方をすることもあります。アイデア出しの議論をするのにふさわしい定義づけをすることをおすすめします。
活用例:顧客体験にかかわる組織をマッピングすることで、ウェブサイトの役割を再定義する
デジタル化が進むなかで、顧客接点や意思決定プロセスは大きく変化してきています。従来は対面でおこなわれていた活動がオンラインに置き換わる流れも加速しています。しかし、顧客体験の場はウェブサイトがすべてではありません。
ステークホルダーマップをつくったうえで、さまざまな関係者と顧客とのかかわりあいの場をより良いものにするために、ウェブサイトでは何ができるか?という視点でウェブサイトの役割を考えると、顧客視点でウェブサイトが果たすべき役割を再定義するヒントが得られます。
※顧客を中心としたステークホルダーマップの活用法は「ビジネスプロセスマップ作成講座」で詳しく解説しています。
3)プロジェクトの関係者を整理した登場人物マップ
これはプロジェクトや業務の遂行に影響を与える関係者を整理したステークホルダーマップです。
自身もしくは自部署を中心に置き、業務に関与している人物や部署とのつながりを整理していきます。
担当しているプロジェクトをうまく進めるために、コミュニケーションや役割分担を見直す際に役立ちます。
活用例:ウェブサイト運営に関与する関係者とのコミュニケーションを見直し、プロジェクト管理の質を高める
企業がウェブサイトに求める役割が拡大したことで、ウェブサイト運営に関与する部署も広がり、プロジェクト体制が複雑になってきています。社内外の利害関係が異なる数多くの関係者と合意形成をしながら進めていかなければいけません。
関係者とのコミュニケーションの難易度が増したウェブサイト運営にかかわる登場人物をマップで可視化して関係性を整理することで、コミュニケーションマネジメントにおける配慮すべきことの検討に役立てられます。
※ウェブサイト運営の登場人物マップの活用法は「ウェブマネジメント講座」で詳しく解説しています。
5.ステークホルダーマップの作り方
1)フレーム構成を決める
まずは、どのようなフレームワーク構成でステークホルダーマッピングをおこなうかを決めます。
使用するフレームワークを決めるにあたっては、「マップをどのような目的や用途でつくるのか?」「マップをつくったら、次にどのような取り組みに活用するのか?」に基づいて判断することが大事です。
2)登場人物であるステークホルダーをリストアップする
どのようなステークホルダーが存在するかをチームでブレインストーミングし、リストアップします。
次のような観点で、関係者を洗い出してみましょう。
- この事業や活動をおこなうにあたって、強い影響を与えるのは誰か?
- この事業や活動をおこなうことで、影響を受けるのは誰か?
- 事業や活動の推進に必要なリソースや権限を握っているのは誰か?
- 事業や活動から得られる利益に関心をもつのは誰か?
- 直接的には関与しないが、間接的に意思決定に影響を与える存在はあるか?
3)ステークホルダーをフレームに配置する
洗い出したステークホルダーをフレームに配置していきます。
関係性が近い(深い)ステークホルダーはなるべく隣接させます。
4)ステークホルダーの関係性を洗い出し、相関関係(つながり)を可視化する
ステークホルダー同士のコミュニケーションや、価値交換のやり取りを矢印でつないで表現します。
6.ステークホルダー分析のコツ
ステークホルダーマップはつくること自体が目的ではありません。可視化したマップをもとにステークホルダーとの関係性を分析し、改善活動に活用できてこそ意味をなします。
そこで、次にステークホルダーマップを使った分析のしかたについてご紹介します。
1)ステークホルダーの優先順位をつける(影響力と関心度を評価する)
ステークホルダーマップに登場する関係者のなかで、関係性を見直す優先順位を検討します。
その際には、次のようなステークホルダー分析マトリクスを活用します。
ステークホルダー分析のマトリクス
ステークホルダー分析マトリクスは、事業に与える関心度と影響度でステークホルダーを整理するための2軸図です。
前述の3種のステークホルダーマップを用いて、登場する関係者を洗い出した後、このマトリクスに配置していきます。
横軸の「関心度」は当該ステークホルダーが事業や業務に対してどの程度の興味関心をもっているかを表します。関心度高いステークホルダーには、ていねいな報告やコミュニケーションをすることが必要とされます。逆に関心度が低いステークホルダーに対しては、関心度を高めるための働きかけをすることで、巻き込んでいくための取り組みが求められます。
縦軸の「権力」は当該ステークホルダーが事業や業務においでどの程度の権限や影響力をもっているかを表します。高い権力を保持しているステークホルダーには特にていねいに関係性を深め、事業に対する満足度の維持や協力関係を得る取り組みをおこなわなければなりません。
2)ステークホルダーとの関係性を変えることでもたらされる影響の仮説を立てる
マトリクスで分析した結果、重要と判断したステークホルダーとの関係性を見直し強化をはかるための企画検討を進めることになります。それにあたって、ステークホルダーマップ上で関係性の変化をシミュレーションしてみることで仮説検討のディスカッションがしやすくなります。
例えばこのような観点で検討します。
- ステークホルダーの配置を換えてみるとどうなるか?
- ステークホルダー間の関係(かかわりあいのしかた)を変えてみるとどうなるか?
- 新たなステークホルダーを巻き込むとどうなるか?
従来は遠くに配置していたステークホルダーを近づけてみることで、共同で取り組むことで新たな価値を生み出すことにつながるかもしれません。
3)ステークホルダーエンゲージメントを高める活動を計画する
ステークホルダーエンゲージメントとは、ステークホルダーの期待や関心事を把握し、それを事業活動や意思決定プロセスに組み込む試みのことをいいます。自社単独で実施する場合もあれば、当該ステークホルダーと協働で実施する場合もあります。
7.ステークホルダーマップ作成に関するおすすめ書籍
- This is Service Design Doing サービスデザインの実践
- マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る
- Web制作者のためのUXデザインをはじめる本
8.「ステークホルダーマップ作成シート」テンプレートダウンロード(無料)
ステークホルダーマップ作成に使える編集可能なテンプレート(PowerPoint)をダウンロードできます。
御社での「ステークホルダー整理のワークシート」としてぜひご活用ください。
9.ステークホルダーマップとあわせてつくると効果的なフレームワーク
ペルソナ
ウェブマーケティングにおける対象顧客架空の人物像を設定することをいいます。
また、ペルソナを使ってユーザーやターゲット像を明確に設定しながら、その⼈物像に対してサービス開発や施策を練るマーケティング⼿法を「ペルソナマーケティング」といいます。
ステークホルダーマップをつくったうえで、具体的な施策検討をする前に、ペルソナを作成することで自社都合ではなく顧客視点に立ってアイデアを練ることにつながります。
また、ステークホルダーマップをもとに、ステークホルダーエンゲージメントを高めるための検討をする際にもペルソナがあるとブレインストーミングの補助となります。
ペルソナについての詳細は下記記事をご覧ください。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップとは、ユーザーが商品・サービスとのかかわりのなかでたどる一連のプロセスを視覚化したものです。
ユーザーは商品・サービスとのかかわりのなかで、認知や検討などステージごとに異なる行動をし、その時々で感情も変化します。ステークホルダーマップをつくったうえで、当該ステークホルダーの行動をカスタマージャーニーマップに表現してみることで、ステークホルダーの興味関心やニーズの理解を深めることに役立ちます。
ビジネスプロセスマップ
ビジネスプロセスマップ(略称:ビジプロ)とは、「顧客の行動シナリオ」と「自社の各部門業務」の両面からサービスプロセス全体を1枚の図にまとめたものです。
ステークホルダーマップで表現された関係者間のかかわりあいをビジネスプロセスマップに落とし込んでみることで、ステークホルダー間のコミュニケーション強化のポイントを探ることができます。
また、ビジネスプロセスマップをつくるにあたっては、そのフレーム設計(どのような枠組みにするか)がとても重要です。ステークホルダーマップをつくることが、ビジネスプロセスマップ上のフレーム設計の検討補助として活用できます。
※ビジネスプロセスマップの活用法は「ビジネスプロセスマップ作成講座」で詳しく解説しています。
- 編集長
- 谷川 雄亮
この記事の監修者
CMOとしてウェブマーケティングの大規模プロジェクトを伴走しています。その経験をもとに、ウェブ担当者としての仕事を体系化した「ウェブマネジメント講座」開発し、講師をしています。実務担当者から経営層まで、100社以上の企業に受講いただきました。ウェブマネジメント・アカデミーでは、みなさまが抱えている課題を一緒に解決できるようにサポートします。
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